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JR北海道で、九月十九日、函館本線で起きた貨物列車の脱線事故以降、あってはならない事故、トラブルが続出している。線路の異常が二七〇件も放置され、今年になって、車両からの出火、燃料漏れ、脱線事故などが続発し、安全無視の経営実態が次々に明らかにされている。
事態の深刻さに、国交省は九月二十一日から特別保安監査に入り、その原因に安全意識の低下や危機意識の欠如が指摘され、社員の年齢構成の偏りが技術断層を生み、車両検査や保線業務の下請け・外注化などが指摘されたが、国策としての国鉄分割・民営化が、利益優先の経営方針のもとで行われた以上、正常な判断ができるのかどうか疑わしい。
それではなぜ、あってはならない事故が続発するのか。JR北海道の野島社長が記者会見で「マンパワーは足りない」と述べたが、このことこそ最大の要因ではないのか。国鉄分割・民営化にあたり、技術的にも経験豊富な国労・全動労所属の組合員を大量に不採用にした。JR北海道発足時、一四〇〇〇人いた職員が現在その半分の七一〇〇人といわれるほどに削減した。この間運転本数は二倍に増やし、スピードアップを行い、保全・検査業務の効率化、外注化などとともに、予算はつかず、極端な人員削減の結果、慢性的な要員不足で「どうすれば仕事が回せるのか、各担当は頭を痛め苦労している実態」と、乗客の安全を守るべき鉄道の現場は疲弊し、労働者が追いつめられている状況が報告されている。これはなにもJR北海道に限ったことではない。「公共性よりも企業性・効率性」を追求するJR各社はみな同じだ。
JR北海道の事故・不祥事が続いている中、九月二十七日、神戸地裁は、二〇〇五年、乗客・運転士あわせて一〇七人が死亡したJR福知山線脱線事故の裁判で、「日勤教育」や、事故を生み出した企業体質、過密ダイヤ、人減らしなどの問題にいっさい触れないまま、「事故を予見できなかった」として、JR西日本歴代三社長(井手正敬、南谷昌二郎、垣内剛の各被告)全員を無罪とする判決を言い渡した。国鉄分割民営化で生まれた国策企業・JR西日本の、企業犯罪を免罪にした。
日本航空(JAL)は、放漫経営の破たんから一万六〇〇〇人にのぼる大量リストラと整理解雇で職を失った従業員と引き換えに、経営の「V字回復」を果たした。マスコミや各種出版物などは「経営の神様・稲盛和夫氏の下での再生美談」で持ち上げているが、いま日本航空内部では、京セラフィロソフィー、六つの精進、経営の原点一二か条が唱えられ「利益が目標額に達するまで安全を口にしてはならない」という会社からの締め付けが行われているといわれている。企業の利益を度外視しろとまでいわないが、安全・安心の公共交通としての使命を忘れ、必要な支出をカットしてつくられる利益、安全を犠牲にしてつくられる利益、こうした事態は利用者からも見放されていくだろう。
今日のJR北海道の危機的事態をもたらした根本的原因は、日本の新自由主義の先駆けとなった国鉄分割民営化にあると考えている。十万人にもおよぶ労働者を新会社から締め出した国家的不当労働行為はあらゆる企業に波及し、「首切り自由」社会の発端になった。このようなことが再び、JR各社のみならず日本航空(JAL)においても許してはならない。この闘いで労働組合の存在が問われる。
安倍政権は、「日本を世界で一番企業が活動しやすい国にする」と公言し、「解雇特区」導入など、この政権が目指す労働政策は、労働法制は労働者保護のためではなく、企業のための労働法制になろうとしている。これを許さず、現状を打開するには労働運動の前進しかない。
(F)