最低賃金を時給1,200円とし、全国一律最賃制度とせよ。 (その1)
以下、全国一般全国協の意見書本文。宛名/差出人は省略。
■意見
(1)最低賃金を時給1,200円とし、全国一律最賃制度とせよ。
(3)実質的な審議が行われる小委員会をはじめ、全審議会を完全に公開せよ。
(4)中央最低賃金審議会で、全国一般労働組合全国協議会に意見表明を求める。
■理由について
(1)最低賃金を時給1,200円とし、全国一律最賃制度とせよ。
①時給1,200円とせよということについて
ⅰ)
全国加重平均で749円という最低賃金はあまりに低すぎます。昨年度の中央最低賃金審議会の目安審議では、Aランク5円、B~Dランク4円の引き上げとされましたが、すべての地方最低賃金審議会で目安より高い答申を出し、全国平均の引き上げ額は12円となりました。「地方の自主性」が発揮されたものですが、そもそもの目安金額が低すぎたといえるのではないでしょうか。
現行の最低賃金額は「賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上および事業の公正な競争に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」という「最低賃金法1条(目的)」を満足させるものではありません。
後述するように最低賃金に影響されて働く労働者は、従来、考えられていたような、若年者、高齢者、短時間労働者だけではなくなっています。「家計の主たる担い手」の労働者、「世帯主男性労働者」なども増えてきています。これらの事を前提に全国加重平均749円という金額を考える必要があります。
ⅱ)
時給749円では月174時間働いても130,326円にしかなりません。厚生労働省が生活保護との比較で使っている可処分所得の算出のための税、社会保険を控除した10年度の可処分所得の比率である0.849(後述するが負担率の低い沖縄の基準)をかけると約110,647円にしかなりません。生活に必要な家賃などを差し引けば、食べるのにかつかつ、餓死しない程度の賃金となることは疑いがないことです。病気などの不測の事態があればたちまち困窮することになります。このような賃金では他人を養うことは絶対に不可能、単身世帯すら維持できない賃金です。単身世帯の場合でも万が一の時には家族などから何らかの支援があることを前提としなければならない賃金です。
時給749円のどこに「生活の安定」があるのでしょうか。どのようにして十分に休養し精神と肉体をリフレッシュし、人間関係を豊富にし、知識と教養を積み上げ、「労働力の質的向上」を図ることができるのでしょうか。
また「公正な競争に資する」ことも全くできません。最低賃金に影響される低賃金労働者は大企業よりは中小零細企業に多く、そこで働く労働者は低賃金ゆえに「生活の安定」も「労働力の質的向上」も実現できず、結果として労働生産性が向上せず、競争力が弱体化します。いつまでたっても中小零細企業の劣悪な賃金から抜け出せないという悪循環にはまり込みます。
また景気の悪化の中で大企業が中小零細企業に対し最低賃金レベルの賃金しか支払えないような水準にまで製品価格を抑え込んでくることはよくあることです。その結果、中小零細企業は優秀な労働力を確保することができないというハンデを構造的にもつことになります。これでは「公正な競争に資する」とはとても言えません。
ⅲ)
国際比較ということからも日本の最低賃金は低すぎます。「賃金(中央値)と比べた最低賃金の水準」において、EU諸国が最低賃金を全労働者の賃金(中央値)の50%から60%に設定することを目標にしている中で、日本の最低賃金は37%とOECDの中では最低レベルにあります。このようにEUでは最低賃金が貧困の拡大に対する重要な政策と位置付けられ、それにふさわしい形で運用されています。日本でも同様の考え方を導入することを検討すべきです。
かつて使用者側は最低賃金が高いと国際競争に敗北し、結果として雇用が失われ、労働条件が低下すると主張してきました。最近は中国をはじめとするアジアの低賃金労働者との競争に敗北すると主張していますが、これはおかしな論理です。多くの先進国では中国などの低賃金圧力に耐えながら、国内労働者に対しては日本より高い最低賃金を維持し、日本などとの国際競争に臨んでいるのです。日本だけが中国などの諸国の「低賃金労働者」との競争を迫られているわけではありません。
ⅳ)
前述したように最低賃金のレベルで給与が支給されているのは従来、パートタイマー、アルバイトなどの若年労働者、高齢の労働者など一部の労働者、業種的にはビルメンテナンス労働者、一部の飲食業などの労働者であると思われてきました。ここ数年でローソン、セブンイレブン、ファミリーマートなどの大手コンビニチェーンにおいては軒並み最低賃金が基準になりました。
郵政は日本で最大の約20万人の非正規雇用労働者を雇用していると言われています。郵政の非正規労働者の時間給は平均で1,040円と言われていますが、その計算式は(地域最賃+20円)+加算給(基礎評価給+資格給・スキル評価)であり、最低賃金が大きな要素をしめています。
被災地における除染労働者の賃金にも最低賃金が大きな影響を及ぼしています。昨秋から危険手当のピンハネがマスコミ報道され、大きな社会問題となりました。その後、除染労働者の賃金が危険手当1万円+日当6,000円=16,000円が相場的に形成されだしています。
環境省が設定している「除染当工事設計労務単価」では、普通除染作業員の一日当たりの労務単価は、2012年度は11,700円、2013年度は15,000円となっています。ところが労働者には日当分として6,000円しかわたらず、9,000円近くが元請、1次、2次下請けなどによってピンハネされています。(実際は福利厚生費、安全管理費、宿舎費用などの間接経費が更に40%認められるので、これらの部分からのピンハネで更に多くなる)
9,000円近いピンハネを法的に根拠づけているのが、低すぎる最低賃金です。福島労働局はこの日当6,000円について、1次下請けと2次下請けなどの契約は民間契約であり労働局は関与できないと開き直ったうえで、自らの管轄である賃金に関しては、福島の最低賃金の時給664円、日給換算では5,312円を上回っているので問題がないとしています。
昨年も指摘しましたが正社員でもトラックやタクシーなどで最低賃金の賃金レベルで、それどころか長時間労働ゆえに最低賃金すら下回って働いている労働者も多くなっています。北海道などで最低賃金以下になっているタクシー労働者のケースなどがマスコミで報道されています。トラックやタクシーなどの労働者の場合、「世帯主労働者」「家計の主たる担い手」の中高年男性労働者も多く、彼ら自身が自覚していないだけで息子や娘のアルバイトよりも低い時間給で働いていることも珍しくありません。
現行の最低賃金はこれまで述べてきた最低賃金周辺の労働者にとっては、これ以上の賃金低下を阻止している側面はあると評価していますが、しかし現状のまま放置されればトラック労働者などの場合、長時間労働による社会的重大事故が発生したり、労働者の命と健康が破壊され続けることになります。
ⅴ)
安倍首相は2月、経済3団体代表に対し、賃金の引き上げを要請しましたが、「アベノミクス」による賃上げに対する追い風はほとんど感じられません。ましてワーキングプアといわれる低賃金労働者にとっては、賃上げや一時金というシステムそのものがないといってもよい状況におかれています。
「アベノミクス」にとって「本格的なデフレ脱却」を実現するためには、最低でも安倍首相が認めるように、労働者の賃金の引き上げが不可避です。
「アベノミクス」の3本の矢とは、「大胆な金融緩和」「切れ目のない財政出動による公共投資で景気浮揚」「世界一、企業が活動しやすくするための規制改革」ですが、労働者の賃金引き上げがなければ、小泉政権時代の「実感なき景気回復」、「賃金低下と貧困や格差の拡大」「大企業の内部留保の急増」が再び繰り返されるのではないかと危惧されます。
小泉政権から第一次安倍政権の時代、2002年3月から2007年10月までの69か月間、戦後最長の景気回復を続け、「いざなみ景気」と命名されました。この間9,000円だった株価は18,000円まで跳ね上がり、2%前後の経済成長が続きました。この時期、大企業の内部留保は167兆円から220兆円に急増しました。しかし、今日に至るまでデフレは脱却できないでいます。
その要因は、労働分野の規制緩和で非正規労働者が急増し、低賃金労働者が増えたことに加えて、正社員の賃金も上がらなくなったことにより、民間の賃金総額は下がり続け、加えて実質増税や社会保険料の引き上げにより可処分所得が減り続け、消費の要となる家計が潤わなかったためです。
低所得者層は収入が増えれば、そのほとんどが消費に回るという政府統計が出ています。
デフレ脱却のカギを握るのは、労働者の賃金引き上げによる消費の拡大であり、特に低賃金労働者の賃金引き上げは、即消費の拡大につながることから、最低賃金の大幅改定は、デフレ脱却にきわめて有効な政策です。しかも最低賃金引き上げは経営者団体への要請とは異なり厚生労働大臣や地方労働局長が直接、決定できる賃金引上げ政策です。政府内では10円台の引き上げが必要という意見が出ているとのマスコミ報道もあります。7月2日の中央最低賃金審議会では田村厚生労働大臣が3年ぶりに出席し、最低賃金の引き上げを要請しました。
ⅵ)
低すぎる最低賃金は、単に労働者の生活が苦しいというレベルを超えて貧困の連鎖という問題を発生させます。いま日本では貧困の拡大が深刻です。低すぎる最低賃金は、それを促進します。低所得家庭の子供たちが教育や社会関係などで大きなハンデを持ち、親世代と同じ低賃金労働者へと連鎖していくことは多くの研究や出版物で明らかにされています。
最低賃金は、憲法25条が保障する生存権保障の具体化である「国民最低生活保障・ナショナルミニマム」にとって、生活保護とならんで大きな基軸となる制度です。最低賃金だけで貧困と格差の拡大に対処ができるとは考えませんし、医療制度、教育、年金、様々な社会保障、福祉制度など体系的な政策体系で対処すべきであると考えます。しかし、そのように考えるとき、働く労働者の最低賃金保障である最低賃金はそれらに大きな影響を与える基軸的な制度です。
最低賃金が低すぎて貧困と格差の拡大を推進、固定化していくものであってはなりません。現行の全国加重平均749円の手直し程度では、現在の貧困と格差の拡大を有効に阻止していくものとはなりえていません。
これらを踏まえ最低賃金を時給1,200円とすることを強く要求します。
(F)