最低賃金13-16 最低賃金を時給1,200円とし、全国一律最賃制度とせよ。 (その2)

最低賃金を時給1,200円とし、全国一律最賃制度とせよ。 (その2)



②都市と地方の格差を拡大するランク制は廃止し、全国一律最賃制度にしなければならないと考えています。

ⅰ)
 最低の652円の島根・高知と、最高の850円の東京では198円も差があり、月収にすれば約34,400円の差があります。最低賃金地域格差があっていいはずはありません。沖縄で働こうが北海道で働こうが、東京で働こうが、最低賃金レベルは同じというのが通常の感覚であろうと考えます。
労働は人間にとって重要な生命活動であり、単に生活の糧をえるだけではなく、その人を社会に参加させ、結合させていく重要な活動です。社会参加の価値を金銭に換算することの是非は当然ありますが、同じ時間でおこなう労働の社会参加の価値が沖縄と東京では異なるということは理解できません。誤解を恐れずに言えば選挙における「一票の格差」のようなものです。
最低賃金はどの地方で、どのような職種であろうと、同じでなければならないと考えます。

ⅱ)
 格差の根拠については一般的には地方と都市の生活費や経済水準の違いなどが言われ、それを反映するものとして20の指標にもとづくランク制が採用され、23年の全員協議会でも概ね妥当と解され、維持が確認されています。

 しかしこのランク制度が、国民最低生活保障と深い関連を持つ最低賃金にふさわしい基準を示しているかは極めて疑問です。この指標では使用者の支払い能力を推定するには役立つかもしれませんが、国民最低生活保障という点では20項目のうち標準生計費の項目があるだけで、他は現状の「地方と都市」の格差を固定化するようなものばかりです。

 地方と都市の生活費の違いという問題では住居費や食費などはあると考えますが、それを主張するなら、地方が構造的に抱える医療、教育、交通、などの重要な社会的インフラ、多様な文化へのアクセスの困難などを厳密に金額換算すべきです。これらは労働者が通常の生活を送るうえで必要なものであり、自らの労働力の価値を高めるためには必要不可欠の事柄です。都市と違って地方では乗用車を持たなければ生活できないというように交通一つをとっても上記の問題で大きな格差があります。これらの問題は全く考慮されていません。

 現行のランク制を根拠づけている指標を使えば都市と地方の差は拡大するばかりです。現に格差は拡大し続けています。その格差と連動し最低が653円という絶対的な水準の低さは、地方経済を疲弊させることにも結果します。

 現実に全国一律最賃制度にすれば、全国各地のパート、契約、アルバイトなどで働く多くの労働者の賃金は上がりますし、その影響で賃金水準が底上げされ、地方の活性化につながります。

ⅲ)
 国際的にみても全国一律最低賃金制度が常識です。ILOの2005年のデーターでは、地域別最賃を採用している国は9ヵ国で、中国やインドネシアなどの国土が大きく地域格差が大きい新興国か、カナダ、メキシコなどの連邦国家などです。日本の国土は狭く、それらの国ほどの大きな文化的、民族的違いがあるわけではありません。

 日本で全国一律最低賃金制を採用しない理由はなく、むしろ現行制度は東京一極集中に示される地方と都市の格差を拡大するという意味では、改善されるべき制度です。

ⅳ)
 全国一律最低賃金制度の実現の必要性は東日本大震災を経て、更に鮮明になっていると考えます。

 東日本大震災前から東北3県は最低賃金が低い地域でした。岩手はDランクで653円、福島は664円、宮城だけがCランクで685円ですが、全国加重平均749円よりはるかに低い金額です。

 被災地では多くの労働者が職を失い、たまに仕事があっても低賃金、非正規というような場合が多数をしています。震災以降、賃金引き下げ圧力が強まっています。それには被災各県の最低賃金の低さが大きく影響しています。

 本年、大幅な最低賃金引き上げによる賃金の底上げがなければ生活の再建のために多額の資金がいる被災労働者は極めて困難な状況に陥ります。家が壊され、工場、港、農地が使えずという状態の中で、あっても低賃金と非正規雇用しか仕事がない状態であれば、好むと好まざるとにかかわらず、被災地での生活再建を断念せざるえない事態も生み出されてきます。

 被災地の最低賃金を上げるためには現行のランク制度では絶対に不可能です。一昨年に宮城全労協が宮城労働局に提出した異議申出書では、「『口を開けば特区』といっているが、最低賃金を大幅に引き上げる『最賃特区』を何故、主張しないのか」という批判を述べています。被災地に切実な最低賃金引上げの声です。

 これに対し、「被災地で期間を限って最低賃金の規制を緩めることも、政府は検討してはどうか。寄付金をもとに被災者を高齢者の買い物代行や清掃などに雇う動きがある。最低賃金の規制を柔軟にすれば、仕事に就く機会が広がる」(「雇用政策の手本を被災地で」日経新聞社説、2012年2月21日)という、怒りをおさえることができない主張がおこなわれています。

 具体的な表現を避けていますが、最低賃金以下の特例賃金のようなものを導入しようと目論んでいることは一目瞭然です。

 こんなことをすれば最低賃金以下の賃金が燎原の火のように被災地に広がっていくでしょう。50兆円といわれる復興需要でうるおっているのは仙台市など一部であり、深刻な問題になっているのは「復興格差」です。「復興格差」に直面させられているのは、気仙沼石巻三陸など被災沿岸部などで生産手段を奪われた農民、漁民、低賃金労働者、高齢被介護者、生活保護世帯、そして福島の原発被災者などです。これらの人々の生活再建のためにこそ最低賃金を大幅に引き上げ、生活の展望を少しでも切り開き、勇気づける必要があります。

 被災地の最低賃金の大幅な引上げのためには全国一律最低賃金制度にするということが、一番、良い方法であると考えます。東日本大震災の復興にむけた社会的絆の強化というなら全国一律最低賃金制度導入は、社会的意味においても賃金を底上げするという意味でも大きな役割を果たすと考えます。

 現在のランク分けの指標を使う限り、被災地の最低賃金は上がりようがなく、上がったとしても東京など都市との差が広がり、被災地で生活することの困難は解決されないと考えます。

 被災地の声にこたえ、被災民衆が希望を見出しうるような大幅引き上げを実現するために、全国一律最低賃金制度を実現するように強く要求します。

③結論

 全国加重平均749円という最低賃金は低すぎ、最賃法1条に規定のある目的を実現するものにはなっていません。

 また低すぎる最低賃金は、常に生活保護切り下げの圧力になってきました。安倍内閣生活保護の切り下げを決定していますが、生活保護の切り下げは母子家庭、高齢者、介護必要とする人々など社会的立場の弱い人々の生存を脅かします。生活保護世帯の収入では貧困の連鎖から抜け出せないことは各種の研究、資料などからでも明らかです。
これ以上の生活保護費の切り下げは貧困層を拡大させ社会を荒廃させることに結果しかねません。労働者の側からいえば低すぎる最低賃金はこのような社会的問題も孕んでおり、労働者、労働組合にとって最低賃金引き上げは重要な社会的責務であり、社会的弱者連帯の闘いでもあると考えています。

 最低賃金制度を全国一律制度とすることは最低生活保障などとの整合性を強化し、体系的な貧困対策、格差対策に有効であり、「公正な競争に資する」ものであると考えます。被災県との社会的絆を主張するなら、とりわけそうです。

 最後に、最低賃金の引き上げは当然のことながら各種の中小企業支援策と結合して行われるべきであると考えます。日本商工会議所などは最低賃金引き上げに毎年、反対していますが、本来からいえば最低賃金が上がり、低賃金に対する歯止めがかかることは、中小企業経営にとって良質な労働力を育成、確保していくうえで有利なことであると考えます。

 これらを踏まえ最低賃金制度を全国一律最低賃金制度とし時給1200円とすることを要求します。それが不可能ならば2010年の政労使合意を踏まえ全国最低800円を実現すべきです。すでに800円以上、もしくは800円に近い最低賃金が適用されている都道府県については、他の道府県の引き上げ額の加重平均と同程度の引き上げ額を目安とすべきであると考えます。



(F)