全労協/ 改憲策動にブレーキを / 新聞 2019年8月号

全労協改憲策動にブレーキを / 新聞 2019年8月号

●第25回参議院選

改憲策動にブレーキ
非正規の声をさらに強めよう


全国労働組合連絡協議会 議長 渡邉 洋


 参議院選挙が終わった。十ヵ所の一人区で自民党を落選させ単独過半数を取らせなかったこと、その結果として改憲派政党の議席数を三分の二を割らせたことは、労働者市民が押し上げた野党共闘の成果と言えるだろう。辺野古基地問題を抱える沖縄に続き、イージスアショア問題が浮上した秋田でも、野党統一侯補が議席を奪うことができた。

 しかし、改憲の流れが完全に止まったわけではなく、政権が抱く野望を挫いたとは到底言えない。一定数を減らしたとはいえ自公の議席数が引き続き過半数を大きく超えたことに加えて、関西を中心に補完勢力が一定の躍進を果たしたことから、安倍政権は野党切り崩しによる改憲実現に自信を深めている。

 もうひとつの問題は低投票率だ。憲法以外にも、消費増税や年金など各政党は争点を提示したが、その切実さを侵透させることができなかった。現状への消極的肯定感もあるが、選挙で現状は変えられないというあきらめが支配的だったのではないか。いずれにせよ、早期の衆議院解散総選挙も想定され、憲法を巡って引き続き護憲派の総結集が求められる。

 参議院選挙の争点のひとつとして、「労働」にまつわる問題があった。低賃金の非正規労働者が拡大し、働き方改革関連法が強行突破されるといった情勢の中で、労働者、労働組合の発言力をどう強めていくかが問われた。今回の選挙で、労働組合が選挙にどう関わったのか、関われたのかが重要となる。

 連合は、比例区立憲民主党と国民民主党から計十人の組織内議員を擁立した。立憲民主は官公労系(旧官公労を合む)、国民民主はすべて民間であり、いずれも大産別だ。結果は立憲民主は全員当選を果たしたが、国民民主は党自体に勢いがなかったこともあり当選三人にとどまった。また、個々の侯補の出身労組組合員への訴え方は様々だったろうが、労働組合の組織推薦が即投票に結ぴつくわけではないことを示したと言えるだろう。労組の社会的影響力の低下と相まって、組合員の意識は近年大きく変化している。自分の所属組合か推す候補者を、無条件で支持する時代は、過去のものとなっている。「組織内侯補」が、組織の外に向かって発信していく中身が問われていく。

 一方、有期雇用や派遣といった「非正規」出身や個人事業主であること、自ら解雇を経験し争議を闘ったことを主張の軸に据えた侯補が多く誕生した。

 彼ら彼女らは全員、大産別出身ではなく、したがって必然的に、出身労組に向かって訴える「組織固め」ではなく、街頭で不特定多数の民衆に訴える戦術をとった。あるときは、労働者いじめで悪名高い企業本社前で、抗議行動も兼ねた街頭宣伝を繰り広げた。その取り組みをインターネットで知った人びとが、現地に多く集まり、候補者に声援を送った。集まった人の多くは、自らが不安定雇用や低賃金に苦しむ労働者であり、侯補者に強い共惑を抱いた。しかし必ずしも「組織」が背景にあるわけではなく、大きな「票」に結びついたとは言い難い。残念なから当選には遠く及ばなかった。

 しかし、がっかりぱかりはしていられない。これらは、底辺の労働者、法律上の労働者の枠からも排除された労働者自から立ち上がり声を上げた最初の試みに過ぎない。彼らの置かれている現実に、選挙を通じて初めて光が当てられたのだ。政党が生まれ変わっていく萌芽でもあり、その訴えが社会に浸透していくのは、これからだ。

 今回、重度障がい者と言われる当事者が議席を得たことも重要だ。外国人労働者には参政権はないが、今後ますますその数を増やし、この国になくてはならない存在になっていく。すぐには票に結びつかなくとも、かれらの現実に光を当てる人びとを、現実に国政に送り込んでいかなければならない。

 今回の選挙結果に一喜一憂することなく、底辺の実態を社会に向けて発信する労働運動を前進させよう。