安倍政権が夏の参院選を控え、三つの経済・社会保障政策、「ニッポン一億総活躍プラン」と毎年改定する「日本再興戦略」(成長戦略)と「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を公表した。そして安倍政権が最も重視するのが「ニッポン一億総活躍プラン」。
今後十年の施策をまとめた「一億総活躍プラン」の内容は多岐にわたり成長と分配の好循環」に向けた目標が並んでいる。「GDP六〇〇兆円の実現、生涯現役社会や希望出生率上昇、介護離職ゼロ」等々。そしてその柱は、「正社員と非正社員の賃金格差を縮める『同一労働同一賃金』の実現に向けて、労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法の関連三法改正」、最低賃金は「年三%程度を目途に引き上げ、二〇二〇年代半ばに全国加重平均で時給一〇〇〇円をめざし」非正社員の待遇を改善する。「三六協定を見直し長時間労働を是正する」。「人手不足が深刻な保育や介護の現場で働く人の賃金を引き上げる」などを盛り込んだ「働き方改革」を強調している。
非正規雇用者の待遇改善や同一労働同一賃金はこれまでもわれわれの政策要求だった。今、派遣労働も含めた非正規労働者が二〇〇〇万人を超えて増え続けている。昨年労働者派遣法が改悪され「生涯派遣」に道を開いた。こうした雇用や低賃金では子どもを産みたくても産めない。それどころか、結婚さえ困難な労働者を増やし続けている。
やはり昨年の通常国会で「労働者の職務に応じた待遇改善確保のための政策の推進に関する法律」(同一労働同一賃金推進法)を可決したものの、条文の「均等待遇」を「均衡待遇」に修正して成立させた。そこには「同一労働同一賃金」の理念などない。
今年の16春闘を前にして安倍首相は、最低賃金を二〇二〇年代半ばまでに一〇〇〇円を実現すると述べた。今年度の地域別最低賃金の全国平均は七九八円、引き上げ額十八円(二・三%)でしかない。経団連の「二〇一六年版経営労働政策特別委員会報告」は地域別最低賃金について引き上げ抑止を迫り、産別最賃の廃止を求めている。全国で最も高い東京の最賃は時給九〇七円だが、年間普通に働いて一六八万円でしかない。
安倍政権は、一億総活躍社会と称し、女性の活躍、最低賃金の引き上げ、賃金引き上げ、男女同一労働同一賃金、長時間労働規制などを掲げ労働者に直接働きかけてきている。しかし一方で、今回は先送りされたが労働時間の規制緩和、さらに不当解雇の金銭解決が目論まれている。
戦後日本の労働者・労働組合が闘い勝ち取ってきた労働者保護規制は安倍政権の下で徹底的に破壊され一層格差と貧困問題を生み出した。年末から年始にかけての株価の下落と円高、原油安は日本経済に悪化の影響を与えているが、しかし円安・株高で大企業が史上最高の収益を誇りながら、その効果は労働者、市民全体に波及していくことなく、逆に格差が拡大する状況が生まれている。
労働者保護規制破壊を許さない
夏の参院選はかつてなく憲法が問われる選挙となる。安倍首相は年頭のあいさつや施政方針演説で「未来に責任を持つ政党の協力を得て、改憲発議に必要な三分の二議席確保」「自分の総裁任期中に改憲を」と表明している。選挙結果しだいでは、戦後現憲法がつくってきた国の在り方が変わる。
昨年の戦争法案反対闘争は、世代・職業を超えて結集し闘った。こうした大衆運動の高揚が参議院選挙に向けた「野党は共闘」をつくり出した。当然こうした大衆運動を労働組合・労働運動自身がしっかり支えていく責務がある。
われわれの参院選における課題は、一つには雇用や働き方が劣化する中で、労働のあり方が問われ、子育て、介護をはじめとする暮らしの問題、社会保障の切り下げ攻撃などが加わり生活が危機に晒されているこの状況をどう改善していくのかということだ。そのためにはまず最低賃金の大幅引き上げ(時給一五〇〇円を目指しつつ、今すぐ一〇〇〇円に)、長時間労働をおしつける労働時間規制撤廃を狙う労働基準法改悪反対、解雇事由の解雇金銭解決制度導入反対、同一労働同一賃金を即座に実現、時間外労働上限規制の実現などの闘いである。そしてこれらの闘いと、辺野古への新基地反対や戦争法廃案、原発再稼動反対の闘いと結びつけた大衆運動の強化である。民意を顧みない安倍政権打倒のために今こそ労働者の力を結集しなければならない。人らしく安心して働き生活のできる社会の実現をめざして、この闘いの中心に、労働者、労働組合こそが立たなければならない。
今、労働者の力がどこまで安倍政権に迫れるか問われている。