全労協15春闘方針 その3 国内情勢

全労協15春闘方針 その3 国内情勢 


◎国内情勢 


① 2012年末から再び首相として返り咲いた安倍首相は第一次政権で成し遂げることができなかった「戦後レジームの脱却」を「積極的平和主義」、「世界で一番企業の活動しやすい国」の実現というキーワードに変えて登場した。

まず、経済政策は産業競争力会議と規制改革会議を中心にして官邸主導によるデフレ対策としてアベノミクスと称し、日銀総裁を更迭して黒田元財務省事務次官を総裁に起用して大規模な金融緩和を実施し、円安株高を誘導した。2013年春の「異次元の金融緩和」に続き、2014年11月には追加緩和を行い、80兆円に及ぶ資金があふれ出ることになった。 次に安倍首相は国土強靱化計画として、公共事業への巨額資金をばらまき、再び日本経済をかつてのように稼ぐ力を取り戻し、成長させるという成長戦略の沈め石にしようというのである。そのためには官製相場と云われるように、年金機構の資金を株式に投入することまで決定し、実施しているのである。

結果、円は1ドル120円台まで円安が進み、株式も日経平均18,000円台に近づいている。この円安株高は輸出大企業と一部富裕層に巨額の富をもたらし、トヨタなど大企業で史上最高益を記録する企業もあり、日本経済はあたかも景気回復しているかのような幻想をまき散らしている。安倍首相と自民党アベノミクスの大成功を喧伝している。


② 一方、円安によって輸入原材料単価は大巾に上昇した。石油をはじめ食料品などが高騰し中小零細企業では円安倒産が拡大している。4月の消費税8%へ引き上げが実施されたこともあり労働者市民の生活は厳しさを増している。消費は低迷しGDPは前年比マイナス1.9%(7~9月確定値)と大きくなり、アベノミクスの失敗は覆い隠すことのできないまでになっている。


③ 安倍政権は積極的平和主義という看板を掲げて暴走している。平和のために軍事力を強化し、世界平和のためには軍事力行使を厭わないというものである。アメリカとの軍事一体化を推進することに大きな主眼があると共に、今後の産業育成をIT、宇宙技術、ロボットなどいつでも軍事技術に転用できる産業、輸出産業としての育成に他ならない。昨年末には国家安全保障会議(日本版NSC)を設置し、特定秘密保護法を強行可決させた。戦時体制への整備である。そして、早速、武器輸出三原則を防衛装備移転三原則と言い改めて、武器輸出を奨励し、国際兵器展示会への出品、ロケット部品の輸出を許可したのである。


④ 2014年7月には集団的自衛権の行使容認を閣議決定し、日米ガイドラインの改定を急ぎ、日米軍事共同行動を「いつでもどこでも」行使できる体制を造ろうとしているのである。沖縄では辺野古へ新基地を建設し、中国・北朝鮮を仮想敵国として対抗するばかりか、尖閣諸島を巡る緊張を奇貨として与那国や先島に自衛隊を配備し、自衛隊海兵隊化を急いでいるのである。強襲揚陸艦オスプレイ自衛隊も装備することを決定している。

政府は沖縄の人々の激しい憤りと反対運動、県知事選に示された「沖縄に基地はいらない」という県民の総意を踏みにじってでも強行しようとしている。


⑤ 安倍首相の思いは国民を思想的にも国家主義によって統合しようという施策が強く打ち出されてきた。特定秘密保護法による知る権利の制限と重罰による威嚇と共に、朝日新聞バッシング、マスコミへの締め付けやNHKの国営放送化、教育再生会議を使った教育委員会制度の改悪を進めると共に、侵略戦争の否定や従軍慰安婦問題をはじめとして歴史の歪曲を進めようとしている。閣僚は自主憲法制定を掲げる日本会議メンバーで構成し、在特会勝共連合統一教会に近い人物を配置して、ヘイトスピーチなど排外主義行為を先導する役割を与えているのである。


⑥ アベノミクス三本目の矢として成長戦略を掲げる安倍首相は経済財政諮問会議を使って「 骨太方針2014(日本再興戦略)」を決定した。成長戦略のキーワードは「日本の稼ぐ力を取り戻す」であり、「世界で一番企業が活動しやすい国」である。御用学者と経済人で構成し、労働団体の代表を排除した経済財政諮問会議の下に産業競争力会議、規制改革会議を設置して成長戦略を阻害する「岩盤」として「労働規制」を真っ先にやり玉にあげて労働法制の規制緩和を声高に主張するのである。派遣労働者は生涯を派遣労働に縛り付けられ、正社員を非正規労働者に代替させる労働者派遣法を改悪することを画策している。そして、財政再建を名目に消費税を引き上げる一方、生活保護の改悪、年金支給額の切り下げ、自己負担増を迫る後期高齢者医療制度の改悪な
ど福祉の切り捨てに余念がないのである。

そして少子高齢化社会がすすむなか、女性労働者の活用をあたかも活躍の場が創出されるかのように言いくるめて、女性の「利用」を煽りながら、新に女性が活躍できるための施策、長時間労働などの禁止は放置したままである。人手不足を補うために特別に技能実習制度を使って外国人労働者の受け入れを画策することと同根である。


⑦ 6月、日本経団連の会長に榊原定征(東洋レーヨン会長)が就任した。彼の最初の仕事は安倍首相と「政経一体」「二人三脚」路線化である。前会長・米倉氏の傲慢さが安倍政権から一定距離を置かれていたことから榊原会長は政権との関係を強めることに腐心をしている。政治献金の再開を直ちに表明すると共に、自民党の財界への貢献を最大評価して献金を呼びかけたのである。そして政府への要望は使い勝手の良い労働法制の規制緩和法人税の20%台への減税実現である。トヨタメガバンクなど大企業は法人税を実質的には極めて低く押さえているか、あるいは全く納入していないことは周知の事実である。トヨタ自動車は兆単位の利益を上げながら、この5年間、法人税を納めていないのである。また、輸出に伴いう消費税は還付され(戻し税)、消費税率が上がれば上がるほどその戻し税が増大するという恩恵にあずかるのである。そして、内部留保金と株主配当だけは膨らんでいくことになる。

経団連産業競争力会議や政労使会議を通じて「労働時間と成果の切り離し」を主張し、いわゆる過労死促進法・残業代ゼロ法の制定を政府に迫っている。来春闘では利益の上がっている企業は賃上げを容認する姿勢を示している一方、総額人件費抑制策をベースに成果主義への攻撃を強めている。


⑧ 安倍政権は新たなエネルギー基本計画を発表して原子力発電を「重要なベースロード電源」と位置づけ、原発再稼働を進めることを明確にした。11月には原子力規制委員会九州電力川内原発1~2号機を新たな基準の「適合性」審査に合格していると発表し、政府は再稼働へゴーサインを出そうとしている。原発再稼働に係わる安全性については規制委員会も政府も責任は取らないとしたまま、また、避難計画も確立せず15年春には再稼働しようとしている。

福島第一原発の事故は収束の目途がつかないままである。そして、放射能に汚染された地下水は日々溢れだし、福島沖の太平洋に流れ出し続けている。

一方、自然エネルギーへの転換として進められていた再生可能エネルギー固定価格買取制度は電力会社によって買い取りが拒否され、再生エネルギーへの転換は進んでいない。既に2011年3・11から4年が経過しようとしているが、「核エネルギーは統御できない」という原発事故の大きな教訓を無視して、政府は再び災禍を招こうとしている。そして、原発を輸出し、核被害を世界に拡げようとしている。


⑨ しかし、安倍内閣の行き詰まりも露わになっている。50%以上という高い支持率を誇った安倍首相の支持率にも陰りが表れ、40%台となってきた。アベノミクスが労働者市民の生活を一向に潤さないばかりか、物価高、消費税引き上げで一層苦しくなってきたことが誰の目にも明らかになってきたことによる。そして、経済動向でもGDPは前年対比1.9%マイナスを示し、消費動向も月を追ってマイナスとなっている。政府が有効求人倍率・失業率の好転をあげ、雇用者は100万人増と言い繕ってみても、正社員は減少し非正規労働者が増え、物価高や消費税引き上げによって実質賃金は16ヶ月連続してマイナスとなっている現状を隠すことはできない。そして閣議決定による集団的自衛権の行使容認や原発再稼働推進など平和と民主主義、市民生活を破壊しようとする政治姿勢に大きな不信も広がっている。

  安倍首相は突然、2015年10月から10%へ消費税引き上げ予定を17年度4月からに延期することを決定し、衆議院を解散して総選挙に打って出た。この解散-総選挙はは野党の選挙準備が整わないうちに安倍政権の足場を固め直そうという、極めて姑息な政治手法である。安倍政治特有の独裁的ファッショ的手法である。


⑩ 労働者の生活は厳しさを増している。14春闘では連合が参加した政労使会議で安倍首相が経営側に賃上げを要請してベアの引き上げが約束された。大手企業の正社員を中心に定昇に加えて6年ぶりにベアが実現した。しかし、連合集計でもベアを含む賃上げ率は2.07%にとどまっている。経団連の集計では2.28%である。「官製春闘」と揶揄され、労働組合が見えないと批判されながらも大企業は円安による記録的な利益が計上されたおかげで正社員の一部に賃上げの成果がもたらされている。円安・株高とは無縁の中小企業労働者には賃上げの恩恵を得ることはない。そればかりか、円安による原材料高で経営が困難に直面する企業も後を絶たない。まして、非正規労働者は流通大手企業の一部を除いて賃上げとは無縁となっている。

非正規労働者の賃上げに大きな影響を及ぼす最低賃金は人手不足(その内実は非正規労働者の人手不足であるが)影響もあり、全国平均16円Up・加重平均で780円となった。しかし、最高値の東京などが888円になる一方、沖縄など九州四国中国地方の一部県では677円と引き上げ額は13円にとどまり、その格差は最大211円と大きく広がることとなった。フルタイマーとして働く場合36,000円を超える格差が生じるのである。大都市と地方の格差は更に拡大し、大都市へ仕事を求めて人口は流入し、地方は社会資本も疲弊して限界集落や商店街はシャッター通りとなっているのである。

労働者の生活を直撃しているのは4月消費税8%への引き上げと円安による生活必需品の高騰である。ささやかな賃上げは吹き飛び実質賃金は減少を続けているのである。統計によると16ヶ月連続してマイナスとなり、生活保護世帯は増え続け161万世帯、216万5千人にのぼっている(2014年9月)。失業率は3.5%を前後、有効求人倍率は1.1倍(14年10月)と数字上は好転しているが正規職の求人は40%に過ぎないのである。仕事は有っても非正規職であり、低賃金でいつ解雇されるか分からない不安定な働き方でしかない。

非正規労働者は全労働者の38.2%にも達し、初めて2000万人を超えたのである。そして「ブラック企業」「ブラックバイト」という言葉がまかり通る労基法さえながしろにする企業倫理をなくした会社が増え続けているのである。正社員は長時間労働とパワハラやセクハラで追い詰められ、メンタルな疾患による労災認定が増え続けている。


⑪ 公務公共サービス職場に於いては公務員労働者の人員削減や給与体系の見直しが進み、民営化や委託化が広範囲に拡大している。14年度人事院勧告では6年ぶりに0.2%のプラス勧告がなされたものの、一方で「給与制度の総合的見直し」が進められ、成果主義の大幅な導入、基本給の削減が求められ、実質的に退職金や年金等に大きく影響し、生涯賃金を低く押さえ込む方向が進んでいる。

民営化や委託の拡大は入札制度の不備もあり、官製ワーキングプアと云われる低賃金非正規労働者が公共サービスを中心的に担う事態にまで深刻さを呈している。公契約条例による歯止めと正規公務員非正規労働者の連携した闘いが一層重要なものとなっている。各自治体における公契約条例の制定も少しづつではあるが進み始めた。公契約条例を更に実効性のあるものとして改善していくと共に、全国の自治体に制定を求めていくことが必要になる。


⑫ 東日本大震災福島原発事故から4年が経過しようとしている。住民が主体となって生活再建を成し遂げるまで、まだまだ遠い道のりが続いている。政府は早々と復興支援策を縮小するばかりか、弱みにつけ込んで放射能汚染廃棄物の中間処理場を押しつけようとしている。また、コミュニティの復活を無視してコンクリートで郷土を埋め尽くす政策を強引に推し進めている。地域の地場産業を復活させ、コミュニティの再建には地元住民の人々が主体となることが必要である。強引な避難区域の縮小と補償の打ち切り、生活再建への支援縮小は許されない。政府には更に手厚い支援策が求められている。そして何よりも原発事故の原因究明と収束を急ぎ、廃炉作業や汚染除去作業に従事する労働者の健康被害を予防する労働条件の確立が求められている。川原発再稼働を許さず、脱原発社会の実現に勤めなければならないのである。


⑬  12月14日投開票された総選挙は自民党公明党が三分の二議席を確保した。投票前の予想では自民党が単独で300議席以上、全議席の2/3を占める勢いと云われてきた。しかし、蓋を開けてみると自民党は4議席減らし、公明党が4議席増えたのみである。大政党に有利な小選挙区制度にも係わらず与党全体で増減なしという結果に終わった。自民党の得票率は小選挙区で48.1%、比例区で33.1%に過ぎない。共産党の13議席増、民主党の11議席増を見れば安倍首相や一部マスコミが「自公与党の圧勝」と強弁してみても、その政策が信任を受けとは決して云えない結果である。沖縄では自民党候補は小選挙区で全員敗北し、辺野古新基地建設反対を掲げてオール沖縄の候補者が勝利したのである。52.66%という戦後最低の投票率や沖縄における自民党候補者の全敗などにも示されているように、安倍首相は「白紙委任」を得たかのように振る舞うことは決して許されない。自民党の補完物として「右」から支えてきた次世代の党も大巾に議席を減らした。700億円という貴重な税金を無駄使いして安倍首相の延命の為の選挙であったことが明らかになったというべきであろう。

 安倍首相はアベノミクスの失敗を覆い隠し、小渕・松島2閣僚他のスキャンダル追及から逃れ、来年秋の総裁選に向けた足場固めのために解散総選挙を行ったのである。年末という、世間では年末・年始を控え慌ただしい時期、北国では雪に閉じ込められて低投票率も予想され、野党の選挙準備が整わないのを狙って実施したのである。

 安倍首相は選挙結果を受けて「この二年間の安倍政権の信任を頂いた思っている」と開き直り、集団的自衛権行使容認や特定秘密保護法、沖縄辺野古新基地建設などを進めるとし、改めて憲法改正への意欲を語っている。安倍首相の自己中心的性格では更に暴走を強めていくことは充分予想されるところである。そして成長戦略を金科玉条に、世界で一番企業が活動しやすい国へと労働法制改悪を強行することも予想されている。労働者派遣法の国会再提出や、過労死促進法・残業代ゼロ法や解雇の金銭解決方式の法制化を進めようとしている。

 今回の総選挙の特徴に50%近くの有権者が棄権したことがあげられる。この戦後最低の投票率は政治に対する無関心と絶望が広がっている露われでもある。これは労働組合の闘いや活動が労働者市民に十分訴えることができていない証左でもあろう。15春闘をしっかり準備していかなければならない。


⑭ こうした厳しい政治経済状況の中でも労働者市民の闘いは続いてきた。労働法制改悪に抗する闘いは労働者派遣法改悪案を廃案に追い込んできた。平和を守る闘いでは特定秘密保護法集団的自衛権の行使容認を阻止するために、首相官邸前抗議行動や国会包囲行動が繰り返し闘われている。脱原発社会を求める闘いは経産省前テント村が継続し、川内原発再稼働反対など広範囲な市民が参加して取り組まれ続けている。

 さようなら原発1000万アクションが継続し、新たに戦争させない1000人委員会も発足して闘いの中心を担っている。安倍首相は戦後レジームの脱却と云い、なんとしても先の戦争による侵略の歴史をねじ曲げ、日本民族を美化して強国「日本」を取り戻そうとしている。この野望に終止符を打たなければならない。

 沖縄では辺野古新基地建設に反対し、辺野古の海や米軍キャンプシュワブ前での闘いとともに名護市長選挙、名護市議会選挙、沖縄県知事選と連続した闘いが取り組まれた。基地を沖縄に押しつけ、県民の声を一切聞き入れないという沖縄差別に対する激しい怒りはすべての選挙で自民党候補に「NO!」を突き付け、辺野古新基地反対派の候補者を勝利に導いてきた。そして全国の闘いに大きな希望をもたらしている。