最低賃金13-17 宮城全労協「意見書」(その2)



宮城全労協



3.「大震災の甚大な影響」は「逆転」据え置きの理由にならない
~「解消」は審議会の責務


 最低賃金審議の注目点は引き上げ額と同時に、「生活保護費との乖離の解消」の行方です。宮城は昨年度改定でも「逆転」状況が続いた6都道府県の一つです。今年度改定での「解消」は当然であり、審議会としての責務です。

 「逆転解消」に対して、生活保護費を切り下げることによって「つじつま」を合わせようとする議論がありました。自民党が進めてきた生活保護への攻撃は、このような議論の実践だといえます。今年度改定においては「生活保護費が8月から下がるため、最低賃金を上げなくても逆転現象が解消する可能性もある」という解説も登場しています(日経新聞6月19日)。

 一方、政府・与党の選挙公約や田村大臣の発言からは「逆転解消」問題への責任ある対応を見ることはできません。政府・与党の生活保護費削減への波紋を抑えようとする意図を感じます。そのような政府・与党の姿勢が「解消」への抑制要因になることがあってはなりません。

 宮城の審議では「大震災の甚大な影響」が逆転を据え置いた理由だとされてきました。これに対して私たちは過去2年、問題の立て方が逆だと指摘してきました。大震災被災地であるからこそ、最低賃金を大幅に引き上げて生活再建と地域再建に力を与えるべきだと、私たちは訴えてきました。


 昨年度、中央審議会の改定「目安」に対して、地元紙・河北新報は「働いても福祉給付に追いつかない賃金水準は、やはり正常とは言い難い。極端な低賃金は地方の崩壊を加速する。構造的な格差問題として、解決の道を探るべきだ」と主張し、次のように述べています(2012年8月3日社説・「逆転」最低賃金/本質は地方の苦しさにある)。

 「被災企業への「配慮」とは、賃金引き上げを猶予する配慮ではなく、賃金向上に向けた努力を促す措置であるべきだ」「被災企業には震災後さまざまな雇用支援策が取られているが、一層の制度拡充や期間延長が欠かせまい。企業の体力を強化する支援策も重要となる」。

 社説は具体的な例として「がれき撤去など割のよい短期雇用が、長期的だが低賃金の地元求人より人気を集める雇用ミスマッチも生じている」と指摘しています。一年が経っても「雇用ミスマッチ」は改善されていない状況の中で、「震災がれき処理」問題は次の局面に入っています。

 震災がれき処理を請け負っている共同企業体が「処理業務に就く被災者らの雇用を、契約が切れる前に打ち切っていたことを(宮城労働局は)明らかにした」と報じられました。「がれき処理はいずれ終わる。その後、処理業務につく数千人の雇用確保が円滑に進むよう、県と連携して対応する」との労働局長のコメントが紹介されています(朝日新聞7月7日県内版)。しかし、労働局の奮闘にもかかわらず、「数千人の雇用確保が円滑に進む」ことはきわめて困難です。

 震災がれき処理は地元雇用に貢献するという議論がありました。「がれき処理=地元雇用」は、被災地の職場・雇用再建が進んでいないことを前提としていました。今後「数千人」が生活再建を期して再び地元で働くためには職場再建が必要ですが、一方、「いまの最低賃金では生活を支えていくことは難しい」「医療費援助も打ち切られ病院にも通えない」という声が被災地であがっています。その声に応えなければなりません。

 中小零細企業への支援が必要です。支援策を具体化させるための態勢が準備されねばなりません。その点を含めて国の任務であり、とくに復興庁の自覚が求められます。復興予算が流用され、一方で「入札不調」などにより復興予算や補助金が使われないまま銀行に滞留しています。これらは税金であり、生きた資金として、被災地域の企業再建、雇用と賃金に回すべきです。政府は何をやっているのか。最賃審議会は政府に迫り、必要な支援を求めるべきです。



4.大震災被災地から「全国一律最低賃金」の要求を

 今春の県内高校生の就職率は前年度から大きく伸びました。2011年3月を振り返ってみれば喜ぶべきことですが、反面、県外の大都市圏に職を求めざるをえなかった若者たちが増加しています。一時の限定的な復興事業が卒業者たちの雇用を保障するわけではありません。

 やがて戻ってきて故郷の再建に役立ちたいと述べていた高卒者たちと、その言葉に涙する被災者たちがテレビに映し出されていました。過疎対策として「地元に戻りたいと希望する若者を支援すべきだ」という提起は少なくありません。具体的な支援策として、最低賃金の大幅引き上げを地域社会全体のテーマとすべきです。

 大都市圏への就職には賃金格差が影響しています。賃金を含めた地域間格差の拡大をこのまま放置しておけば「過疎」地域はますます人口が減り、経済力も衰退の一途をたどることは明らかであり、それは国が予測していることです。

 「単なる現状復旧」ではなく「未来志向の復興」が必要だという復興論が相次ぎました(もちろん善意の提言も含まれていますが)。被災地はもともと過疎地域であり、「単なる復旧」は過疎化に拍車をかけるだけだというわけです。「復旧すればするほど現状維持的になり、創造的復興を阻害する」などと、復旧を求める被災者たちは税金泥棒だと言わんばかりの主張さえありました。

 最低賃金地域格差の拡大を容認しておいて「未来志向の復興」を堂々と語るような人々は、おおむね「中央目線」の人たちです。過疎地域の最低賃金を大都市圏よりも相対的に引き上げるべきなのです。

 東京をはじめ大都市圏を中心とする「特区」が構想され、人材も流通もエネルギーもいっそう集積しようという議論が、新政権の「成長戦略」のもとで沸騰しています。首都圏へのエネルギー供給基地として福島原発があったという「反省」はどこにいったのか。地元では怒りと憤りが充満しています。

 「Dランク」という区分には差別と抑圧の歴史が刻み込まれていると、福島第一原発事故はあらためて教えています。最賃ランクは地域格差を助長するものであり、やめるべきです。
 
 最賃の全国一律制への見直しを求める要求は、大震災から次の社会をめざして立ち上がっていく可能性を秘めています。被災地の最賃審議会がそのような議論を深め、全国に発するべきです。



5.最低賃金と地域を結ぶための審議公開を検討すべき

 なによりも最低賃金が直接的な意味をもつ労働者たちの声を、審議会に反映させることが必要です。その点で改善・配慮すべきことが多くあるはずです。審議会は検討し、審議会委員の構成を含めた具体的な施策に移すべきです。

 同時に、地域的な審議のあり方も考慮されるべきです。なぜなら最低賃金は地域にとって大切な指標の一つであり、個々の労使関係の「外側」にいる地域の様々な人々の関心のもとに審議され、決定されるべきであるからです。

 とくに被災地である宮城では、長期にわたる復旧・復興のたたかいが不可欠です。最低賃金の審議と決定に被災地全体が関与することは復興にとっても、地域の民主主義の観点からも重要な事であり、<改定審議を地域に開く>という発想と努力が審議会に求められています。

 以上、意見ならびにその理由とします。

(2013年7月17日、宮城全労協「意見書」)



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