最低賃金13-17 宮城全労協「意見書」(その1)

最低賃金13-17 宮城全労協「意見書」(その1)




差出人の電話・Fax省略

                       2013年7月17日

宮城地方最低賃金審議会
会長  金﨑 芳輔 殿


宮城全労協
議長 大内 忠雄
仙台市若林区新寺1丁目5-26-510                   


宮城地方最低賃金審議会への意見書(2013年度)


 2013年度の宮城地方最低賃金審議会の審議にあたり、宮城全労協は以下の意見及びその理由を述べます。

 歴史的な大震災被災地の最賃審議会が、苦悶する低所得労働者とその家族ならびに地域に希望を与える審議結果を答申することを切望します。



<意見>

1.最低賃金(昨年度宮城685円/時)を全国一律で一千円超に引き上げること
2.「生活保護費との乖離」については、今年度改定において解消すること
3.審議公開の具体的な検討を行い、実現をはかること


<理由>

1.田村厚労大臣の諮問と衆議院選挙をはさんだ今年度の最賃審議について
2.インフレ・消費税増税・福祉削減は低所得労働者の生活に大打撃を与える
3.「大震災の甚大な影響」は「逆転」据え置きの理由にならない
  ~「解消」は審議会の責務
4.大震災被災地から「全国一律最低賃金」の要求を
5.最低賃金と地域を結ぶための審議公開を検討すべき


1.田村厚労大臣の諮問と衆議院選挙をはさんだ今年度の最賃審議について

 7月2日、厚生労働省中央最低賃金審議会が開かれ、最賃改定の「目安」決定に向けた実質的審議がスタートしました。

 田村厚生労働大臣は審議会に出席し「すべての所得層での賃金上昇と企業収益の好循環を実現」するために「最低賃金の引き上げに努める」ことを求め、「調査審議」にあたっては6月14日閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針及び日本再興戦略に配意」するよう言及した諮問を行いました。

 また7月5日開催の宮城地方最賃審議会でも同様の諮問がなされています。

 田村大臣はこの閣議決定後の記者会見(6月14日)で、前例(平成19年、柳澤大臣)をあげながら最賃審議会への出席と引き上げ要請の意向を示し、「政府をあげて最低賃金を引き上げていくことに協力をお願いさせていただく」と述べていました。

 今年度の最賃審議は参議院選挙をはさんだ日程で行われています。この選挙は「政権再交代」をもたらした先の衆議院選挙につづくものです。政府・自民党は選挙の争点は経済政策だと主張しており、労働者の雇用・賃金に大きな影響を与える選挙となります。

 新政府は今春、経営者団体や大企業に対して「賃金引き上げ」を要請しましたが、これに応える動きはごく一部にとどまり「アベノミクスによる賃金上昇」はいわば空振りに終わりました。そこで最低賃金はどうなるのかと関心が集まっています。実際、7月2日の中央審議会には昨年を倍する傍聴人と報道陣がつめかけたと伝えられています。

 このように注目を集めている最賃審議ですが、田村大臣は二つの重要な点を十分に説明していません。そのことは最賃引き上げに対する政府の姿勢を曖昧なものにしています。

 第一に、前政権での「政労使合意」との関連です。

 2008年7月の改正最賃法の施行から政権交代を経て2010年6月「政労使合意」にいたる過程は、最低賃金引き上げを凍結・抑制した自民党小泉政権時代からの転換を象徴するものでした。貧困、格差、ワーキングプア、派遣切りなどが社会的な問題として噴出し、新自由主義構造改革」政策の見直しが強く意識されました。政権再交代後の現政権による「すべての所得層での賃金上昇」は以上の経緯とどのような関係にあるのか、明確に述べられていません。そのため、たとえば「合意」に盛られた「官公庁の公契約」への言及を新政府が踏襲しているのかなど、不明なままです。

 第二に、福祉予算の削減、なかでも生活保護費削減との関係です。

 自民党は野党時代に生活保護行政の見直しを強調しましたが、当時の生活保護費削減の主張は「デフレ」を根拠にしたものであり、現在の「インフレ政策」は想定されていません(しかも当時、根拠とされた物価は受給者の生活実態を無視しているとの指摘もなされたほどです)。政府は最低賃金の引き上げに努めるとする一方、8月から生活保護基準を引き下げ、3年かけて平均6.5%、最大10%という大幅削減を実行すると宣言しています。それは生活保護(受給者)を「好循環」の環から排除するものであり、その点でも矛盾しています。

 政府・与党の思惑がどうであれ、インフレ・消費税をはじめとする増税・福祉削減という現政権の政策が、低所得労働者の生活をいっそう悪化させ、格差を拡大させることは明らかです。「賃金上昇なき物価上昇の恐れ」「実感なき景気回復」「アベノミクスの矛盾」などとマスコミも報じています。「好循環」のなかに賃金上昇と最低賃金引き上げを位置づけているのは、政府がそのような批判を自覚しているからだということもできます。

 「最低賃金引き上げ」の要請が、選挙対策や政権支持率の維持を意識したリップサービスやパフォーマンスであってはなりません。また最賃引き上げと「労働市場規制緩和」をリンクさせる動きがあるとの報道もありますが、まったく不当なことです。

 審議会が貧困労働者の切迫した現状認識を共有し、その声に応える審議と答申を行うよう求めます。

 とくに宮城地方最低賃金審議会は「生活保護費との逆転の解消」にとどまらず、大幅引き上げをもって大震災被災地を再建する推進力となるべきです。



2.インフレ・消費税増税・福祉削減は低所得労働者の生活に大打撃を与える

 田村大臣が「配意」を求めた閣議決定文書は経済財政諮問会議産業競争力会議など新政権の議論を受けたものです。そこには「再生の10年」を通した「マクロ経済の姿」が描かれており、「実現を目指す」とか「期待される」という表現が多用されています。

 今後10年間の平均で「名目GDP3%、実質2%程度の成長」が期待され、「2%の物価上昇の下、それを上回る賃金上昇につなげることで、消費の拡大を実現し、所得と支出、生産の好循環を形成する」「物価の上昇が想定される中、賃金や家計の所得が増加しなければ、景気回復の原動力となっている消費の拡大は息切れし、景気が腰折れすることにもなりかねない」等々。

 「好循環」は社会の実態を無視した、机上の論ではありませんか。何よりも循環の輪が崩れたとき、そこから排除されるのは「弱者」です。好循環には「生産性の高い部門への労働移動」が埋め込まれていますが、転職がスキルアップやステージの飛躍につながる労働者はごく一部であり、多数の労働者は買いたかれることになる。それが「流動化された労働市場」の現実です。

 就業人口の4割に迫ろうとしている非正規雇用、年収200万未満は1千万人超。新政権の「三本の矢」政策に加え「第四の矢」として「分配政策」や「貧困・格差対策」を入れるべきだとする主張が保守陣営からもなされていますが、政府はこれを受け入れようとはしていません。政府が示しているのは「財政規律」であり、「国土強靭化」や「企業減税」によって膨らむ財政支出を穴埋めするのは福祉予算の削減ということになります。


 「(2%物価上昇に対応して)全国平均749円の2%、平均15円超の引き上げ」や「(2012年度改定と比較して)前年度12円超が焦点」などとする予測記事がでています。仮にその程度の額では、前政権時代と比較しても大きな引き上げではなく、まして前例なき異次元緩和という政府や日銀の自画自賛ぶりとは全くかけ離れたものです。

 現時点での全国平均である「1時間749円」は1800時間で134万8千円です。このような額がまかり通っていることこそが問題であり、これでは「働く貧困層」の拡大をとめることは不可能です。「健康で文化的な最低限度の生活が営める」という改正最低賃金法の深刻な違反です。

 インフレに加え、福祉予算の削減、消費税などの増税、年金削減が進みます。「介護地獄」が社会問題となってからかなりの時間がたっていますが、葬式代が工面できずに家族の遺体を放置したり、生活困窮者が救いの手もなく餓死に至るような事態が続いており、「アベノミクス」によってますます「社会の底が抜ける」ことが強く懸念されます。

 私たちは「時間1千円超への引き上げ」を求めていますが、最も単純な計算で、1千円で1800時間(月150時間)として年額180万(月額15万円)です。

 つまり、この額でも「年収200万円」には到達しないのです。その意味で「時間一千円」は、最賃労働者のこれ以上の困窮と際限なき格差拡大に歯止めをかけ、生活改善に向けた足場を築くために必要な最低限の賃金として実現されねばなりません。