最低賃金3 意見書 (京都) 2/3

最低賃金の意見書 (京都) 2/3
 


 
②都市と地方の格差を拡大するランク制は廃止し全国一律最賃制度にしなければならないと考えています。
ⅰ)最低の645円の沖縄、高知、岩手と、最高の837円の東京では192円も差があり、月収にすれば約33400円の差があります。最低賃金地域格差があっていいはずはありません。沖縄で働こうが北海道で働こうが、東京で働こうが、最低賃金レベルは同じというのが通常の感覚であろうと考えます。
何故なら労働は人間にとって重要な生命活動・社会活動であり、単に生活の糧をえるだけではなく、その人を社会と結合させていく重要な活動です。その重要な活動の最低の単価が地域によって異なってもいいというのは理解することができません。沖縄、岩手、高知であろうと東京であろうと1円は1円です。同じように人間にとって重要な価値を持つ労働の対価は全国一律でこれ以上低い賃金にしてはならないと定めるべきです。最低賃金はどの地方でどのような職種であろうと同じでなければならないと考えます。
 
ⅱ)格差の根拠については一般的には地方と都市の生活費や経済水準の違いなどが言われ、それを反映するものとして20の指標にもとづくランク制が採用され、23年の全員協議会でも概ね妥当と解され維持が確認されています。
しかしこのランク制度が、国民最低生活保障と深い関連を持つ最低賃金にふさわしい基準を示しているかは極めて疑問です。この指標は使用者の支払い能力を推定するには役立つかもしれませんが、国民最低生活保障という点では20項目のうち標準生計費の項目があるだけで、他は現状の「地方と都市」の格差を固定化するようなものばかりです。
地方と都市の生活費の違いという問題では住居費や食費などはあると考えますが、それを主張するなら、地方が構造的に抱える医療、教育、交通、などの重要な社会的インフラ、多様な文化へのアクセスの困難などを厳密に金額換算すべきです。これらは労働者が通常の生活を送るうえで必要なものであり、自らの労働力の価値を高めるためには必要不可欠の事柄です。都市と違って地方では乗用車を持たなければ生活できないというように交通一つをとっても大きな格差があります。これらの問題は全く考慮されていません。
現行のランク制を根拠づけている指標を使えば都市と地方の差は拡大するばかりです。現に格差は拡大し続けています。その格差と連動し最低が645円という絶対的な水準の低さは、地方経済を疲弊させることにも結果します。
現実に全国一律最賃制度にすれば、全国各地のパート、契約、アルバイトなどで働く多くの労働者の賃金は上がりますし、その影響で賃金水準が底上げされ、地方の活性化につながります。
 
ⅲ)国際的にみても全国一律最低賃金制度が常識です。ILOの2005年のデーターでは、地域別最賃を採用している国は9ヵ国で、中国やインドネシアなどの国土が大きく地域格差が大きい新興国か、カナダ、メキシコなどの連邦国家などです。日本の国土は狭く、それらの国ほどの大きな文化的、民族的違いがあるわけではありません。
 日本で全国一律最低賃金制を採用しない理由はなく、むしろ現行制度は東京一極集中に示される地方と都市の格差を拡大するという意味では、改善されるべき制度です。
 
ⅳ)全国一律最低賃金制度の実現の必要性は東日本大震災を経て、更に鮮明になっていると考えます。
 東日本大震災前から東北3県は最低賃金が低い地域でした。沖縄、高知と並んで岩手はDランクでも最低の645円、福島は658円、宮城だけがCランクで675円ですが、全国加重平均737円よりはるかに低い金額です。
 昨年は宮城では生活保護とのかい離が、厚生労働省の計算でも8円ありましたが、震災の打撃を口実に1円しかあがりませんでした。被災地では多くの労働者が職を失い、たまに仕事があっても低賃金、非正規というような場合が多数となっています。震災以降、賃金引き下げ圧力が強まっています。それには被災各県の最低賃金の低さが大きく影響しています。
 本年、大幅な最低賃金引き上げによる賃金の底上げがなければ生活の再建のために多額の資金がいる被災労働者は極めて困難な状況に陥ります。家が壊され、工場、港、農地が使えず、という状態の中で、あっても低賃金と非正規雇用しか仕事がない状態であれば、好むと好まざるとにかかわらず、被災地での生活再建を断念せざるをえない事態も生み出されてきます。
 被災地の最低賃金を上げるためには現行のランク制度では絶対に不可能です。昨年の宮城全労協が宮城労働局に提出した異議申出書では、「『口を開けば特区』といっているが、最低賃金を大幅に引き上げる『最賃特区』を何故、主張しないのか」という批判を述べています。被災地に切実な最低賃金引上げの声です。
これに対し、「被災地で期間を限って最低賃金の規制を緩めることも、政府は検討してはどうか。寄付金をもとに被災者を高齢者の買い物代行や清掃などに雇う動きがある。最低賃金の規制を柔軟にすれば、仕事に就く機会が広がる」(「雇用政策の手本を被災地で」日経新聞社説、2012年2月21日)という、怒りをおさえることができないような主張がおこなわれています。具体的な表現を避けてはいますが最低賃金以下の特例賃金のようなものを導入しようと目論んでいることは一目瞭然です。
こんなことをすれば最低賃金以下の賃金が燎原の火のように被災地に広がっていくでしょう。50兆円といわれる復興需要でうるおっているのは仙台市など一部であり、深刻な問題になっているのは「復興格差」です。「復興格差」に直面させられているのは、気仙沼石巻三陸など被災沿岸部で生産手段を奪われた農民、漁民、低賃金労働者、高齢被介護者、生活保護世帯、そして福島の原発被災者などです。これらの人々の生活を再建するためにこそ最低賃金を大幅に引き上げ、生活の展望を少しでも切り開き、勇気づける必要があります。
被災地の最低賃金の大幅な引上げのためには、全国一律最低賃金制度にすることが、一番良い方法であると考えます。東日本大震災の復興にむけた社会的絆の強化というなら、全国一律最低賃金制度導入は、社会的意味においても賃金を底上げするという意味でも大きな役割を果たすと考えます。
 それが不可能というのならば2010年の雇用戦略対話の「できるだけ早期に全国最低
800円にあげる」に基づき、「最低でも800円」にすることが必要です。
いずれにしても現在のランク分けの指標を使う限り、被災地の最低賃金は上がりようがなく、上がったとしても東京など都市との差が広がり、被災地で生活することの困難は解決されないと考えます。
 
ⅴ)以下は、昨年、宮城全労協が提出した意見書、異議申出書です。
★意見書
 「低すぎる最低賃金水準が重くのしかかり、大震災によって被災地の賃金を押し下げる構造にあります。被災地を励ます意味においても、今年度最賃審議が特別な位置にあることを認識され、大幅引き上げの実現に向けて審議を尽くすことを強く要請します」
 ★異議申出書
 「大震災からの『復旧・復興』はあまりにも遅く不十分であり、地震津波原発事故
の被災地では怒りと絶望が渦巻いています。『自殺・孤独死・関連死』により、連日、多くの人々の命が奪われています。このような現実に踏まえて審議がなされ、被災地と被災民衆が希望を見出しうる最低賃金の大幅な引き上げを答申されるよう要請し、意見とします」
 
 ⅵ)福島県議会、岩手県議会も以下のような意見書を提出しています。
 ★福島県議会 「福島県最低賃金の引上げと早期発効を求める意見書(平成24年3月16日)」
 
・・・・最低賃金の引き上げは、働く者のセーフティーネット機能を高めるとともに、労働意欲の向上、ひいては企業の業績向上へ寄与することにもつながり、あわせて福島県の復興・再生という観点から見た場合においても、県内の労働力の確保や労働人口の県外流出防止のために非常に重要なことである。・・・・
1、福島県最低賃金を「雇用戦略対話」における政労使合意に沿った引き上げをはかること・・・
 
 同様の主旨の意見書が福島県下の福島市郡山市などの自治体で採択されている。
 
岩手県 「最低賃金改正等に関する意見書(平成24年7月9日)」
・・・・また本県では東日本大震災津波からの復旧・復興に懸命に取り組んでいるところであるが、一定水準の賃金の保障をはじめとした雇用環境がかくほされなければ、被災者の生活再建も地域の復興もすすまない。・・・・
・・・・平成24年度の最低賃金の改正にあたっては、雇用戦略対話の合意に基づき早期に800円を確保し、景気状況に配慮しつつ全国平均1000円に到達するよう尽力すること。・・・・・
 
 一読してわかるように被災地の労働者にとって最低賃金引き上げは切実な課題です。これらの被災地の声にこたえ、被災民衆が希望を見出しうるような大幅引き上げを実現するために、全国一律最低賃金制度を実現するように強く要求します。
 
③結論
 京都府の751円という最低賃金は低すぎ、最賃法一条に規定のある目的を実現するものにはなっていません。2006年の686円から2010年の749円までの4年間、63円の引き上げは、08年のリーマンショック以降の底知れない賃金低下に対する一定の歯止めにはなったとは考えます。しかし昨年は東日本大震災被害などを口実に、引き上げについては「生活保護との整合性」だけが問題とされ、少額の引き上げしか行われませんでした。このような状態が継続すると被災県に典型なように、最低賃金が以前よく言われた「低賃金の重し」というものに固定化されかねません。
 また低すぎる最低賃金は常に生活保護切り下げの圧力になっています。生活保護の切り下げは母子家庭、高齢者、介護生活者など社会的立場の弱い人々の生存を脅かします。生活保護世帯の収入では貧困の連鎖から抜け出せないことは各種の研究、資料などからも明らかです。これ以上の生活保護費の切り下げは貧困層を拡大させ社会を荒廃させることに結果しかねません。労働者の側からいえば低すぎる最低賃金はこのような社会的問題も孕んでおり、労働者、労働組合にとって最低賃金引き上げは重要な社会的責務であり、社会的弱者連帯の闘いでもあります。
 最低賃金制度を全国一律制度とすることは最低生活保障などとの整合性を強化し、体系的な貧困対策、格差対策に有効であり、「公正な競争に資する」ものであると考えます。被災県との社会的絆を主張するなら、とりわけそうです。
 最後に、最低賃金の引き上げは当然のことながら各種の中小企業支援策と結合して行われるべきであると考えます。日本商行会議所などは最低賃金引き上げに毎年、反対していますが、本来からいえば最低賃金が上がり、低賃金に対する歯止めがかかることは、中小企業経営にとって良質な労働力を育成、確保していくうえで有利なことであると考えます。
これらを踏まえ最低賃金制度を全国一律最低賃金制度とし時給1000円以上とすることを要求します。それが不可能ならば2010年の政労使合意を踏まえ全国最低800円を実現すべきです。すでに800円以上、もしくは800円に近い最賃が適用されている都道府県については、他の道府県の引き上げ額の加重平均と同程度の引き上げ額を目安とすべきであると考えます。


 
(F)