最低賃金3 意見書 (京都) 1/3

最低賃金の意見書 (京都) 1/3
 


                             2012719
京都地方最低賃金審議会
会長 久本 憲夫様
ユニオンネットワーク・京都
宇治市広野町西裏9914 
パール第一ビル3階 
自立労働組合連合 気付
電話 0774438721
田中 啓司
 
                    
 
最低賃金法25条5項にもとづき2012年の最低賃金決定に関する調査審議に関して意見を述べます。
 
■意見
(1)最低賃金を時給1000円以上とし、全国一律最賃制度とせよ。
 
(2)厚労省生活保護基準の算定は低すぎる。以下の理由で述べる内容とせよ。
 
(3)実質的な審議が行われる小委員会をはじめ、全審議会を完全に公開せよ。
 
(4)京都地方最低賃金審議会で、ユニオンネットワーク・京都が意見表明をおこなうことを求める。
 
 
■理由について
 
(1)最低賃金を時給1000円以上とし、全国一律最賃制度とせよ。
 
①時給1000円以上とせよ、ということについて
 
ⅰ)京都府の751円という最低賃金はあまりに低すぎます。本年もまた同じことを述べることになりますが、普通の生活をすることを考えれば絶対額が低すぎます。
 現行の最低賃金額は「賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上および事業の公正な競争に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」という「最低賃金法1条(目的)」を満足させるものではありません。
 後述するように最低賃金に影響されて働く労働者は、従来、考えられていたような、若年者、高齢者、短時間労働者だけではなくなっています。「家計の主たる担い手」の労働者、「世帯主男性労働者」なども増えてきています。これらの事を前提に京都府最低賃金751円という金額を考える必要があります。
 
ⅱ)時給751円では月174時間働いても130,674円にしかなりません。厚生労働省生活保護との比較で使っている可処分所得の算出のための税、社会保険を控除した22年度の比率である0、849をかけると約110,942円となり、家賃、水光熱代などを差し引けば、食べるのにかつかつ、餓死しない程度の賃金となることは疑いがないことです。病気などの不測の事態があればたちまち困窮する事態になります。このような賃金では他人を養うことは絶対に不可能、単身世帯すら維持できない賃金です。単身世帯の場合は万が一の時には家族などから何らかの支援があることを前提としなければならない賃金です。
時給751円のどこに「生活の安定」があるのでしょうか。どのようにして十分に休養し精神と肉体をリフレッシュし、人間関係を豊富にし、知識と教養を積み上げ、「労働力の質的向上」を図ることができるのでしょうか。
「公正な競争に資する」ことも全くできません。何故なら最低賃金に影響される低賃金労働者は大企業よりは中小零細企業に多く、そこで働く労働者は低賃金ゆえに「生活の安定」も「労働力の質的向上」も実現できず、結果として労働生産性が向上せず、競争力が弱体化します。また大企業が中小零細企業に対し最低賃金レベルの賃金しか支払えないような水準にまで製品価格を抑え込んでくることはよくある事態です。いつまでたっても中小零細企業の劣悪な賃金とそれがもたらす競争力の弱体化という悪循環にはまり込み優秀な労働力を確保することができないというハンデを構造的にもつことになります。これでは「公正な競争に資する」とはとても言えません。
 
ⅲ)国際比較ということからも日本の最低賃金は低すぎます。
周知のようにオランダ、ルクセンブルクアイルランド、ベルギーなどは1000円台、イギリス、フランスでも800円台(2009年)です。またEUでは平均賃金の50%以下が「貧困」、60%以下が「低賃金」と定められ、当面、平均賃金の50%という最低賃金の目標が掲げられ、更に60%が目指されようとしています。このようにEUでは最低賃金が貧困の拡大に対する重要な政策と位置付けられ、それにふさわしい形で運用されています。日本でも同様の考え方を導入することも検討すべきです。
かつて使用者側は最低賃金が高いと国際競争に敗北し、結果として雇用が失われ、労働条件が低下すると主張してきました。最近は中国をはじめとするアジア諸国の低賃金労働者との競争に敗北すると言っていますが、これはおかしな論理です。多くの先進国では中国などの低賃金圧力に耐えながら、国内労働者に対しては日本より高い最低賃金を維持して国際競争に臨んでいるのです。日本だけがアジア諸国の「低賃金労働者」との競争を迫られているわけではありません。
 
ⅳ)前述したように最低賃金のレベルで給与が支給されているのは従来、パートタイマー、アルバイトなどの若年労働者、高齢の労働者など一部の労働者、業種的にはビルメンテナンス労働者、コンビニ店員、一部の飲食業などの労働者であると思われてきました。
 しかしトラックやタクシーなどで最低賃金の賃金レベルで、それどころか長時間労働ゆえに最低賃金すら下回って働いている労働者も多くなっています。すでに北海道などで最低賃金以下になっているタクシー労働者のケースがマスコミで報道されています。我々のタクシー労働者組織化の経験からも、賃金体系が最低賃金を基準にしている場合が大半です。その結果、年金をもらいながら、あるいは複合就労の一つの仕事としてタクシー労働者となっているケースも増えています。
 タクシーの場合、歩合制賃金体系が大半で、一定の売上高を積み上げなければ最低限の生活をする賃金すら支給されない、という仕組みから、残業指示をされなくとも自己判断でオーバーワークを行う事例も少なくありません。それを使用者が黙認することによって、労働者の過労死や脳・心疾患が多数生み出されています。長時間労働・過労が原因の事故も増加しています。このような中で、「タクシー運転者の改善基準告示」を守って働く乗務員は、総支給額で10万円以下という最低賃金以下の収入が常態化しています。まさに過労死か飢餓賃金かという究極の選択を強制されているのです。
それは歩合給における労働者の取り分が少ないという問題もありますが、規制緩和による台数増という、需給バランスの崩壊も大きな原因の一つです。需給バランスの崩壊と最低賃金の低さ、要するに社会的規制の緩和ということが長時間労働を生み出し、労働者の生活と安全を脅かしているのです。最低賃金の低さは経営者側の真剣な経営努力による利益の確保とそれによる労働条件改善を怠る根拠ともなっています。最低賃金を生活できる水準に引き上げ、長時間労働をなくすことが、タクシー業界を労働者が安全にかつ安心して働くことができる業界に改善することにつながるのです。
 
 トラック労働者でも二次、三次下請けの近距離(地場)の運転手の賃金レベルは、各地の最低賃金が基準になっているケースが多くあります。賃金は1日いくらという形で大雑把に約束されることが多く、1日、12時間労働が大体の基準です。休憩時間は無く、荷待ちの時に適当に車の中で休憩というのが業界の常識です。その場合、1日の賃金は、最低賃金を時給751円とするとそれを基準に、(751円×8時間)+(751円×1.25×4時間)=9,763円を前提に、9,800円とかキリのいい1万円とかに設定されます。しかし「実労働時間」という概念が労使ともども希薄なので、時間外労働や深夜労働が発生した場合、ほとんど計算されず、未払になるケースが多くあります。
12時間を超えた場合でも「1日いくらの約束」なので、そもそも労働者が請求しないということが多くあります。特に近距離運送は規制緩和により中小零細業者が増加して過当競争状態にあります。運賃は最低賃金を見据えて設定され、渋滞などで労働時間が伸びても会社に支払う余力はほとんどないということもあります。団体交渉で12時間分の運賃が労働者の賃金、賃金未払分が会社の利益と公言する使用者もいました。これは特別な事例ではありません。
 長距離でも二次、三次の下請けになると賃金体系は、「基本給」(最低賃金×174時間)+「固定残業、その他、残業賃金の計算基礎額に算入されないような手当類」(総計15万円~20万円)=35万円~40万円前後とされています。週末の金曜日の夜か、土曜日にしか自宅に戻らず、残り5日はトラックで過ごすというような長時間労働でも残業賃金が未払にならないように設定されています。固定残業部分は総支給額30万円から40万円前後の業界水準の差額との関係で設定されるケースが多いと思われます。
私たちの長距離トラック運転手の感覚では、「地場の運転手よりは手取りはいいが、日曜日の深夜に出かけ、家には土曜日に帰ってくる生活なので、食費が4,5万円はかかる。改善基準告示の拘束時間月293時間をはるかに超える拘束時間が実態なので、長距離運転手が地場の運転手より特に労働条件がいいとは思わない」というのが共通の意識です。
 トラックやタクシーなどの労働者の場合、「世帯主労働者」「家計の主たる担い手」の中高年男性労働者も多く、彼ら自身が自覚していないだけで息子や娘のアルバイトよりも低い時間給で働いていることも珍しくありません。運送業は日本社会にとってはなくてはならない基幹産業です。その基幹産業で働く労働者が健康や命の危険を冒しながら、更には重大事故に怯えながら、低賃金ゆえに家族のために長時間労働に耐えているのです。
 全国37の経営者協会が2012年6月19日に発表した「最低賃金近辺で働いている労働者の多くは家計補助的労働であり、世帯主の生活保護基準と比較するのは妥当ではない(最低賃金改定目安審議に関する要望書)」という認識は極めて一面的かつ危険な評価です。運輸産業という基幹産業ですら多くの労働者が最低賃金近辺で働いているのです。頻繁に報道される重大事故、4月の関越のバス事故などが発生する根拠は厳然と存在しています。
 現行の最低賃金はタクシーやトラックなどにとってこれ以上の賃金低下を阻止している側面はあると評価していますが、しかし現状のまま放置されれば長時間労働による社会的重大事故、労働者の命と健康を破壊し続けることになることも事実です。
 
ⅴ)低すぎる最低賃金は、単に労働者の生活が苦しいというレベルを超えて貧困の連鎖という問題を発生させます。いま日本では貧困の拡大が深刻です。低すぎる最低賃金は、それを促進します。低所得家庭の子供たちが教育や社会関係などで大きなハンデを持ち、親世代と同じ低賃金労働者へと連鎖していくことは多くの研究や出版物で明らかにされています。
 最低賃金は、憲法25条が保障する生存権保障の具体化である「国民最低生活保障・ナショナルミニマム」にとって、生活保護とならんで大きな基軸となる制度です。最低賃金だけで貧困と格差の拡大に対処ができるとは考えませんし、医療制度、教育、年金、様々な社会保障、福祉制度など体系的な政策体系で対処すべきであると考えます。しかしそのように考えるとき、働く労働者の最低賃金保障である最低賃金はそれらに大きな影響を与える基軸的な制度です。
最低賃金が低すぎて貧困と格差の拡大を推進、固定化していくものであってはなりません。しかし現行の751円は、現在の貧困と格差の拡大を有効に阻止していくものとはなりえていません。
これらを踏まえ最低賃金を時給1000円以上とすることを強く要求します。


 
(F)