海を越えてつながる不正・差別と闘ううねり / 全労協新聞 2020年7月号

海を越えてつながる不正・差別と闘ううねり / 全労協新聞 2020年7月号

 


 

海を越えてつながる不正・差別と闘ううねり

 

全国労働組合連絡協議会

議長 渡邉洋

 

COVID19の感染が続き、世界中で外出や経済活動の禁止・抑制が続く中、アメリカの一地方都市で起こった警察官による黒人殺害事件が、人種差別反対運動に火をつけた。運動は瞬く間に世界中に拡大し、六月十四日には日本でも人種差別反対をメインに掲げたデモ行進が行われた。

 

SNS上での誹謗中傷を巡り、性暴力被害に遭った伊藤詩織さんが提訴に踏み切った。この問題は、加害者が安倍首相に近いこともあり、政治的な色彩を帯びることとなった。伊藤さんを支えるには、個人の尊厳への自覚と、私たちひとりひとりの真の自立が求められる。

 

自粛解除に浮かれてはならないが、生きるための闘い、尊厳を守るための闘いを決して絶やすまい。

 

抗議の声を上げるアスリートたち

 

人種差別反対の世界中の人びとの動きに反応し、日本にルーツを持つ様々な人びとが立ち上がった。テニスプレイヤーの大坂なおみさんがSNSで抗議の発言すると、多数の共感が寄せられる一方で、少なからぬ反発の投稿が寄せられた。いわく「アスリートは政治に口を出すな」「日本には人種差別など存在しない」「大坂はテロリストだったのか、がっかりした」等々。大坂さんは静かな論調で、しかし力強く反論した。「これは人権の問題。イケアの店員だったら家具のことしか言っちゃだめなの?」

 

アメリカで活躍するダルビッシュ有大谷翔平、八村累、錦織圭選手らも堂々と人種差別反対の意思表示をした。国内でも北島康介オコエ瑠偉をはじめとするアスリート、タレントがこれに続いている。彼ら、彼女らを決して孤立させず、その勇気を支え続けよう。

 

今、この国にある人種差別

 

六月十四日、東京渋谷、大阪中之島などで、人種差別反対のデモ行進が行われた。デモ行進には、主催者の予想をはるかに超える人びとが参加した。

 

渋谷のデモは、入管行政によって立場の極めて不安定な非白人系の在日留学生を中心に取り組まれ、また、差別主義者のデモ隊との接触も予想されたことから、多くの自主規制の下で企画された。この自主規制が、人種差別反対の側に立つ人びとの間に戸惑いを生じさせた。

 

逆の角度からの批判も聞こえてきた。人種差別反対を叫ぶのは結構だが、中国による少数民族抑圧問題を取り上げろ。コロナが収束していないのにデモ行進なんかするんじゃない。日本に人種差別は存在しない等々だ。

 

デモ行進終了後、アフリカ人の父を持つ女性が、日本人として暮らす中で受けてきた「勝手な固定観念」すなわち差別と偏見について、テレビの取材で語った。おそらく様々なルーツを持つ多くの人たちが、自らの体験やこの国の息苦しさについての抗議の意志を、思い思いに表現し歩き切ることができた。行動の形態については課題は多々あるにせよ、間違いなく貴重な行動だった。

 

セカンドレイプ告発をからかう者たちとの闘い

 

ジャーナリストの伊藤詩織氏は、二〇一五年四月、仕事上の相談のため、当時TBS政治部記者だった山口敬之氏と会う過程で性暴力被害にあった。伊藤(以下敬称略)は後日、準強姦容疑で警視庁に被害届を提出、一時は山口への逮捕状が用意されたが、結局嫌疑不十分で不起訴となった。山口が安倍首相に近い存在だったことが影響したとされている。なお、その後の民事訴訟では伊藤が勝訴している(現在高裁で係争中)。

 

この訴訟を巡っては、山口と政権との近さから政治的色彩を帯びることとなり、特に政権寄りの外野から伊藤に対して多くのバッシングが浴びせられた。いわゆるセカンドレイプだ。

 

その外野のひとりが漫画家はすみとしこであり、伊藤に似せた風刺画に「枕営業失敗」などと性被害を揶揄する言葉を盛り込んだ。伊藤は六月八日に、はすみを名誉毀損で提訴、するとはすみは、「漫画はフィクション」と逃げを打った上で、「提訴によって私が誹謗中傷された」「伊藤は結局金目当て」などと発信している。

 

労働運動の基礎は人権

 

今回、直接的には労働組合の課題ではない問題を取り上げたが、共通項は人権だ。人権を守るために叫ぶことがからかいの対象となる荒んだ社会を、これ以上放置してはならない。それは、労働組合運動にとっての要と考えている。

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