全労協/ 原則的な春闘を! / 新聞 2020年3月号

全労協原則的な春闘を! / 新聞 2020年3月号

 


 

時代の「転換点」に負けない原則的な春闘を!

全国労働組合連絡協議会

議長 渡邉洋

 

一月二十一日に経団連が発表した二〇二〇年版経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)は、二〇二〇春闘を迎えるにあたっての経営側の強い決意を表わした。具体的には、国際的な競争に生き残るための徹底的な「日本型雇用システム」の破壊であり、労使関係では春闘の否定だ。

 

すでに一部大企業労組が要求を公表せず産別統一要求に水を差し、さらにはベアに査定を持ち込むことを自ら要求していることが明らかになっている。無論私たちはこうした動きに反対し、原則的な春闘をけんり春闘として貫いていくが、一方で、経営側が叫ぶ時代の「転換点」なるものの本質を見抜く力を養っていく必要がある。

 

「新時代の日本的経営」から25年

 

一九九五年に当時の日経連が「新時代の日本的経営」を発表した。高度経済成長を支えてきた年功序列制・終身雇用を捨て、労働者を長期蓄積能力活用型・高度専門能力活用型・雇用柔軟型の三グループに変更するというものだった。この方針を受けるように、その後の労働法制の見直しが進められてきた。

 

こうした人事管理政策の変更の背景には、長引く不況、国際競争の激化と日本企業の地位の低下、若年労働力の不足などがあったとされている。そしてその狙い通りに日本社会には低賃金の非正規労働者が激増する一方で、長時間労働が過労死・過労自殺の多発へとつながっていった。日本企業の国際競争力は、相変わらず低下を続けている。

 

「バラ色」の未来の労働

 

経労委報告は、政府が進める「Society5.0」時代の到来にふさわしい働き方を目指すと連呼する。「Society5.0」とは、情報化社会に続くAI等の新たな技術革新によってもたらされる「未来」だ。この時代の「転換点」を捉え、各企業が新たな価値創造を目指す。

 

そのためには、最先端技術に対応した人材確保・育成が必要であり、労働市場のあり方も変えるのだという。

 

AIは、人間が携わってきた多くの労働に取って代わるとも言われている。技術革新そのものは避けられないし、それが苦役からの解放であれば歓迎すべきかもしれない。しかし人間そのものが不要となる社会であれば空恐ろしい。

 

あるいは、技術革新の恩恵を受ける人と、新しい技術に支配されさらなる低賃金労働へと追いやられる人びととの分断が起こり、格差社会は拡大・固定化される。それは、情報化社会と言われる現在の社会構造の延長線上にある。

 

働き方改革」の真意とは

 

経労委報告では、働き方改革について多く記述しているが、過酷な長時間労働が労働者の命と健康を脅かし奪ってきたことへの反省はほとんど見られない。むしろ、「転換点」に取り残されていく危機感を前面に出し、働きがいある仕組み作りに力点が置かれている。

 

例えば働く時間や場所の制約をなくした「柔軟な働き方」であり、能力と評価の直結、ジョブ型人事・賃金制度の推進だ。裁量労働制高プロ制が推奨され、企業全体から意思決定や諸制度、物理的にも切り離した「出島」が提案されている。これは、労働法と無縁の特区という意味だろう。総じて、労働者が求める真の働き方改革とは真逆を指向している。

 

シェアエコノミの罠

 

経労委報告から離れるが、個人所有の資産を貸し出し、購入せず借りることで事足りるとする「シェアリングエコノミー」が徐々に普及している。カーシェアリングや民泊、シェアハウスもそうだが、ライドシェア、ウーバーもその一つに位置づけられている。

 

こうした仕組みは、市場経済が持つ諸問題、例えば環境への影響を軽減するという側面を持つ可能性があるが、すでにある規制を破壊する可能性も持つ。また、シェアエコ自体がビジネスに組み込まれることによって、新たな労働問題を惹起せざるを得ない。労働法の規制をかいくぐった「雇用類似」だ。「夢の未来」が語られるときこそ注意しなければならない。その裏で進行する影の部分に光を当て、抗議の声を上げよう。