全労協/ 参議院選挙勝利に向けて / 新聞 2019年6月号



参議院選挙勝利に向けて

平和と民主主義のために
安倍政権の「改憲」野望を
食い止める護憲派総結集


 夏の参議院選挙に向けて、改憲に向けた動きが加速している。自民党は前回の参議院選挙では、憲法が争点となることを避けて選挙戦を進め、結果として改憲勢力が衆参両院で三分の二を超える議席占めた。そして選挙が終わるや、自民党は二〇一二年に公表した憲法改正草案を前面に押し立てて改憲策動を進めた。今回安倍首相は、二〇二〇年改憲を公言、自らの野望を顕わにして選挙に臨もうとしている。

 自民党改憲案の危険性はいくつか言われている。天皇象徴から国家元首に位置づけ直すこと、第九条を「戦争の放棄」から「安全保障」に変え、おおっぴらに集団的自衛権行使に向けて舵を切ることなどだが、それに止まらない。第一三条「すべて国民は個人として尊重される」の「個人」をわざわざ「人」に言い換える。戦後民主主義の要である個人の尊重という色彩を徹底的に排除するものだ。第一二条や一三条で、権利を制限する文言「公共の福祉に反しない限り」を「公益及び公の秩序に反しない限り」に置き換えている。この文言は、二一条「表現の自由」や二九条財産権にも忍び込む。最優先されるべき共通項が「福祉」から「秩序」に変更されるのだ。

 草案第二四条で新設された家族の励け合いの条文化は、家制度の復活と同時に社会的な助け合いを目指す近代的な社会福祉」の否定を画策したものだ。「侵してはならない」とされてきた「思想信条の自由」等々は、「保障する」と書き換えられることによって、すべて人間は生まれながらに自由かつ平等とする天賦人権説が破棄され、国家から与えられた制限付き自由になっている。総じて、憲法が権力を規制するという立憲主義を否定し、むしろ国民への規制の色彩を強め、個人の尊厳を軽視し国家統制を強めるものであり、戦後民主主義を全否定する憲法案だ。

 二〇一四年、安倍首相は、憲法改正の発議要件を定めた憲法九六条について「たった三分の一の国会議員が反対することで、国民投票で議論する機会を奪っている。」と述べ、一時トーンダウンしてい憲法改正に再び意欲を示した。このときは、国民世論が一向に盛り上がらず、改憲賛意を示していた憲法学者らも「ひとたび改憲のハードルを下げればあとは過半数押し切れる」裏□入学のようなものと喝破された。

 二〇一五年秋、戦争への道を開く「安全保障関連法」が強行可決され、憲法九条は事実上骨抜きにされた。安倍政権はそれにもあきたらず、「自衛隊を違憲とする憲法学者いる」「自衛隊員の子供がいじめられる」などと言いふらし、九条改憲への意欲をますます顕わにしている。

 二〇一八年三月に、自民党は当初の草案から改正頂目を絞り込み、四項目の改憲案を明らかにした。項目数は減らされたとはいえ、危険な要素はしっかり盛り込まれ、また、自民党案以外の改憲派党にも配慮するという、こそくな性格を持つものだ。とにかく自分の任期中に改憲という事実だけは歴史に刻んでおきたいという、文字どおりの安倍首相の「野望」と言うしかない。

 その第一に、第九条がある。「国防軍」という記述を引っ込め現行第二項をそのまま残すことにしたとは言うものの、「第九条の二」を書き加えて自衛隊を明記するという。これは現行第一項第だ。しかしその一方で安倍首相は、改憲しても「自衛隊何も変わらない」などと矛盾したことを言っている。

 第二には、草案にもあった「緊急事態条項」を、体裁を変えて残したことだ。「大規模な災害」と銘打ってはいるが、「災害」が戦争を含む可能性があり、災害対策基本法等の現行法を超えて政府への全権委任を憲法で認める内容であり、ナチスドイツがワイマール憲法を骨抜きにしたことを彷彿とさせる。

 第三に、選挙制度への言及である。参議院での県を超えた合区を解消するのが狙いとされているか、憲法で定めるような性格ではなく、どう見ても党利党略であり、国民主権の基本精神かないがしろにされている。

 第四は、教育の権利に関するものだ。草案でも、「国の未来を切り拓く上で欠くことのできないもの」という文言で教育の国家統制をもくろんでいたが、ほぼその文言を踏襲している。「経済的理由に関わらず教育を受ける機会」を保障する云々と追記され、一部、教育の無償化を謳う体裁を取っているが、これも法律レベルで十分に対応可能な内容であり、他党を一部取り込むリップサービスであることは見え見えだ。

 どれを見ても、安倍政権のこそくさは明らかだろう。「安改憲反対」というスローガンはやはり重要だ。

 二〇一六年の参議院選は、改憲派議席を伸ばした一方で、護憲派野党共闘一人区三二選挙区すべてで成立し、一一選挙区で勝利を収めた。間違いなく多くの市民、労働者が、安倍政権の危険性を見抜き、護憲派の総結集を求め闘った結果だ。これはもちろん十分ではなかったが、改憲の「野望」を食い止めるためにはどうしても必要なことだったし、今回の参議院選挙でも構図は変わらない。

 続一地方選挙は、有権者関心の低さが低投票率と多くの無投票当選を産みだし、低役票率の間隙を縫って、ヘイトスピーチを垂れ流す小政党が「躍進」した。この事態を甘く見てはならない。労働者り生活と権利を守り、あらゆ心人びとの尊厳を守り、平和と民主主義のための参議院選挙闘争勝利、安倍政権打倒を掲げつづけよう。

(渡邉洋全労協議長)