安倍政権の「労働者にやさしい」政策はまやかし / 全労協新聞 2016年11月号

安倍政権の「労働者にやさしい」政策はまやかし / 全労協新聞 2016年11月号


全労協
http://www.zenrokyo.org/

全労協新聞
http://www.zenrokyo.org/simbun/sinbun.htm
より




安倍政権の「労働者にやさしい」政策はまやかし

悪夢のような社会を招いてはならない
労働法制解体を何としてでも阻止しよう



 安倍政権は「働き方改革」を政策の最優先課題にすると言っている。そして、同一労働同一賃金長時間労働規制など、その言葉だけでは聞こえのよいことを標榜しているが、現実に国会に上程されているのは、労働基準法改悪案(裁量労働制の拡大、高度プロフェッショナル制度)であり、本当に長時間労働規制をするなら、直ちに国会に上程中の労基法改悪案は撤回しなくてはなるまい。「同一労働同一賃金」についても、既に経団連は「日本型同一労働同一賃金」を提起して、「同一労働八割賃金」がせいぜいのところかと、批判されている状態である。

 雇用共同アクションの集会で講演した毎日新聞の東海林智氏は「安倍政権は新自由主義を全面に立てた労働政策では、人手不足対策としての女性や高齢者の就労促進かできないので、アベノミクスの失敗を隠す意味もあって、長時間労働や低賃金・格差問題を批判しだした。しかし、それは参議院選挙での争点つぶしであったし、今もその力を発揮して、人びとを感わしている。ともかく何か出てくるのではないかとの期待を抱かせ、その期待をつないで自らへの支持をつなぎ止めようとしている」と批判した。だから、これからも安倍政権は[同一労働同一賃金]などについての具体的な提案は、極力引き延ばして曖昧にするであろう。



自由主義
労働政策


 結局、安倍首相は「世界で一番企業が活動しやすい国をめざす」政策を続けているわけだ。派遺法を再規制する動きは全くなく、「高度プロフェッショナル制度」や「裁量労働制の拡大」は国会上程中のままで、審議が始まろうとしている。残業上限規制も実効性のないレベルの検討が進められているだけだ(上限を一〇〇時間にしたり、あるいはより厳しくしても除外規定を多くつくる、と言われている)。加えて、解雇の金銭解決も具体的に法案化に進みそうな気配である。

 そして、そうした政策の実現のために、政策決定の仕組みを変えようとしている。現実に厚生労働省の組織改変が予定されており、労働基準行政の弱体化の可能性が大きい。さらに人材ピジネスに都合のよい職安行政を進めるために制度整備か進んでおり、行政は人材ビジネスの下請けになろうとしている。資本は「自由な労働移動」を合言葉にしており、実際にその方向に進んでいるということだ。

 その政策決定の仕組みの改悪の最大の焦点は、労働政策審議会を骨抜きにし、労働組合の意見を「聞き置く」だけの制度にして、労働行政から労働者と労働組合の意向を排除する準備が始まっていることである。「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」では、「ILOはそんなに偉いのか」などと「有識者」が語る議論がなされていて、ILO原則(労働政策の決定は政労使の三者で行う)の廃棄が目指されている。

 行き着く先は、労働行政の解体であり、労働法制の撤廃である。究極的にすべての労働者は個人事業主として、資本・経営と「対等」な主体と扱われ、相対的に弱い「労働者」ではなくなるという、そんな社会かめざされている。

 皆が「契約自由」の世界で働かせられることとなり、上記「自由な労働移動」に対応するわけだが、要するに、そこでは「労働者」がいないから労働法は不要になり、労働組合は力を失い、あるいは解体され、労働者はその権利を奪われ、保護もされなくなる。

 そんな悪夢のような社会を招いてはならない。そのために、安倍政権の労働法制解体は、何としても阻止しなくてはならない。

(労働法制プロジェクト大野隆)