入管行政を抜本的に見直す闘いを / 全労協新聞 2021年6月号

入管行政を抜本的に見直す闘いを 全労協新聞 2021年6月号

 


#全労協 

 

入管難民法改悪案 廃案を勝ち取る
入管行政を抜本的に見直す闘いを始めよう


全国労働組合連絡協議会 議長 渡邉 洋


 五月十八日昼、国会前に集まった労働者市民の間で歓声が沸き起こった。政府が強行採決の構えで臨んだ入管難民法「改正」案を取り下げたことが伝えられたのだ。

 現段階での法案取り下げはこれで事実上の「廃案」となる。しかし終わったわけではない。排除の論理に貫かれた現行の入管行政それ自体は変わらない。市民社会に残る排他的な意識が温存されれば、やがて別の形で排除の動きが蘇るだろう。

 「他者」を受け入れる社会、誰もが共に安心して働き暮らせる社会の実現に向けて、労働組合に求められるものは大きい。


●地道な取り組みが世論を動かした

 

 様々な事情で在留期限が切れた外国人を「不法滞在」=犯罪者と決めつけ、日本の社会から排除するために収容・強制送還を行ってきた出入国在留管理行政だが、そのルールを厳罰化の方向に見直す入管難民法改正の国会論戦が始まるのに合わせて、四月十六日から、入管難民法改悪反対のシットインが連日国会前で取り組まれてきた。

 当初、この問題に対する社会的関心はそれほど強くなかった。しかし、入管行政の非人道性が知れ渡るにつれて次第に日本全国で反対運動が取り組まれ、海外のメディアが大きく取り上げ、日本のタレントや作家の間でも「反対」の声が上がり始めた。収容中に死亡したスリランカ人のウィシュマさんに何があったのか、政府が事実を隠そうとしたことも世論に火を付けた。

 政府与党は、コロナ対策の失敗で支持率が下かる中、予定されている総選挙への悪影響を避けるために強行成立を断念したとも言われている。だとしても、地道な大衆的な取り組みが世論を形成し、採決を先送りさせ、取り下げに結びつけたことは間違いない。


● 排除ありきの政策の変更を!

 

 政府の法改正の埋由は、「オーバーステイなどで国外退去処分を受けた外国人の送還拒否が相次ぎ、入管施設での収容長期化につながっている」とされている。社会問題となっている長期収容の解決策を、厳罰化による送還の促進に求めている。帰りたいと思えば帰れるから恣意的長期収容はない、と政府・与党側は説明してきた。

 しかしこれは、民族・宗教対立や政治的理由等で「帰りたくても帰れない」人ぴとの事情を切り捨てるものでしかない。難民申請してもほとんど受け付け今れないこんにちの日本の難民行政の実態が異常であることは、今や全世界に知れ渡っごいる。外国人を、共にこの社会を作る仲間としてではなく、よそ者、邪魔者としか見ないこの国の姿が、その底流にある。

 今回、収容中に死亡したウィシュマさんの問題が、この国のあり方に大きな疑問符を突きつけ、法案取り下げの流れを加速させた。が、一時の同情に終わらせることなく、社会のあり方を問う闘いとして継続していかなければならない。


● 働く仲間としてより強い連帯を


 前号で、入管難民法問題に対する労働組合関係の動きの鈍さ、特に企業内労組の抱える問題について述べた。しかし、今回の入管法問題に熱心に取り組んできた各地の労働組合の存在についても一言触れないわけにはいかない。その中心にあるのは、地域の問題に取り組んできた様々な合同労組だ。

 外国人労働者、移民労働者は、全国各地、幅広い産業、職場におり、彼ら、彼女らの存在抜きにはもはやこの社会は機能しない。甘い言葉で誘い「安い労働力」として便利に使い、用が済んだら排除する、排除しきれなけれぱ犯罪者に仕立て上げていく。このような社会であってはいけない。各地の合同労組は、そのことにいち早く気がつき、自らの問題として取り組んできた。

 引き続きこの取り組みを、すべての産別、すべての企業内労組に波及させていくことが重要だ。