誰ひとり取り残さない社会の実現を! / 全労協新聞 2021年5月号
#全労協
分断・差別・排除の蔓延こそがこの国の緊急事態
誰ひとり取り残さない社会の実現を!
全国労働組合連絡協議会 議長 渡邉洋
「コロナ克服の証」と称したオリンピック・パラリンピックが、新型コロナ感染再拡大を目の当たりにしながら強行されようとしている。聖火リレーは日本各地に「密」を作り出し、巨大な広告力ーの隊列だけが目立つという異様さだ。
「お・も・て・な・し」で迎えるはずだった海外からの一般観客の受入れは断念された。が、おもてなしどころか、日本で暮らす人びとの安全は脅かされ、差別がはびこり人間の尊厳が踏みにじられる現実はそのままだ。そんな社会の変革こそ急がなければならない!
●五輪憲章の理念も踏みにじる蛮行
オリンピック憲章は「人間の尊厳の保持」「いかなる種類の差別にも反対する」と謳い上げている。JOCは東京大会の理念を「人類が共に栄え、文化を高め、世界平和の火を氷遠に灯し続ける」としている。
そうしたバナーが具現化されるのであれば、様々な困難があっても、五輪開催は社会を変えていくチャンスと言えるだろう。しかし、新型コロナ感染拡大を押して強行される姿は、政権維持とスポンサー企業の利権のためでしかない。アスリートの「美談」も政治利用される、それがこんにちの五輪の姿だ。
そもそも今回のオリンピック・パラリンピックを巡っては、福島がアンダーコントロールだという大嘘、巨額に膨らんだ国立競技場建設費問題、猛暑の中での開催の危険性、数え切れないほどの汚点が指摘されてきた。そして組織委員会会長の女性差別発言、開会式での女性を侮辱する企画など、ことごとく人間の尊厳や反差別といった五輪の精神を踏みにじるものだ。
尊厳も反差別も、もはや影も形もない。
●移民を使い捨てる経営側の論理
四月九日のけんり春闘中央行動では、外国につながりを持つ移住労働者の不当解雇事件を巡り、二ヵ所の社前抗議行動が取り組まれた。彼ら彼女らが、経営側からいかにひどい仕打ちを受けてきたかが明らかにされた。
ホテル清掃業務に携わっていた労働者が、休業給付金や未払い残業代等の解決を求めて労組を結成するや、コロナを口実に突如解雇された。リネンサプライサービスの会社でも、労働者を雇用保険等未加入のまま長年こき使い、あげく難癖つけて解雇した。コロナの中で明らかになったのは、言葉の壁を悪用して労働者に不利になる書類にサインを強要するなど、移住労働者を劣悪な労働環境に追いやり、声を上げれば使い捨てるという差別と排除の論理だ。
五輪憲章は、こうした社会のあり方を問題にしているのではないか。
●外国人・移民が安心できる社会とは?
今国会で上程された入管難民法改正案は、排除の論理をより強める内容となっている。国際的に批判されている難民への閉ざされた門戸や非正規滞在者に対する長期収容問題が放置され、厳罰化で強制排除するという性格となっている。
今回の法改正を巡って、当事者である移民、難民の声は一切反映されていない。四月十六日に国会前で行われた座り込みでは、国会議員は、票にならなくても、彼ら彼女らの声に耳を傾けてほしい、それこそが成熟した民主主義の証、かけ声倒れでなく、真に誰一人取り残されない社会を実現しよう、と呼びかけられた。
●同情ではなく働く仲間として
入管難民法問題への関心がなかなか広がらない。そこには社会の分断された姿が投影されている。特に労働組合関係の動きが鈍いとも言われる。
企業内労組が身内の問題に汲々としていることは理解できるが、移住労働者の実情も含めて、この国のありようが根本から問われていることを想起しなければならない。
自分たちだけが助かろうということは決してあり得ない。自らの職場の外で起こっている問題も、自ら職場の問題とつながっているとの自覚なしに、職場の問題の本当の解決はない。
職場の垣根を超えた闘いを進めよう。
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