郵政ユニオン12月25日/ 「かんぽ生命保険契約問題 特別調査委員会」報告についての見解

かんぽ生命保険契約問題 特別調査委員会」報告についての見解

 

2019年12月25日

 

郵政産業労働者ユニオン
中央執行委員会

 

かんぽ生命保険契約問題特別調査委員会は 12 月 18 日、調査結果を取りまとめた報告書(以下、最終報告書という。)を発表した。

 

最終報告書は9月 30 日に発表した「中間報告」を引き続くものとなっている。中間報告では今後の調査方針として、関係者の「生の声」を可能な限り聴取することにより、深度のある調査を進める方針のもと、今回出された最終報告書は現場の「生の声」が盛り込まれた内容となっている。

 

最終報告書は日本郵政グループのガバナンスに触れ問題点を指摘している。現在、政府は日本郵政の株式 56.87%を保有し、日本郵政グループの持ち株会社として、日本郵便株式会社の全株式、かんぽ生命株式 64.48%、ゆうちょ銀行株式 88.99%を保有している。日本郵政のガバナンスの問題点として、「持株会社としての日本郵政が果たすべき役割やグループガバナンスの在り方について、全役員のコンセンサスが得られていなかった」「不適正募集の実態に
関する情報が不足していたため、必要な対策を講じることができなかった」と指摘している。


日本郵政におけるコーポレートガバナンス体制については、取締役会は社外取締役9人を含む 15 人で構成され、取締役兼代表執行役は長門正貢氏(取締役兼代表執行役社長・2016 年4月就任)及び鈴木康雄氏(取締役代表執行役上級副社長・2015 年6月就任)となっている。取締役には日本郵便の横山邦夫社長、かんぽ生命保険の植平光彦社長、ゆうちょ銀行の池田憲人社長のグループ子会社の社長が就任しているのにも関わらず、「全役員のコンセンサスと不適正営業の情報不足があった」として問題点をあげているが、関連する会社社長が就任している取締役会において、社会問題となっているかんぽ生命の不正販売の実態が共有化されてこなかったこと自体、取締役会としての「役割・責務」が果たされていないと指摘せざるを得ない。

 

さらに日本郵便においては、日本郵政グループの企業統治の問題点として最終報告書では、「重層的な組織構造の中で、郵便局の現場で発生している不適正募集の実態が把握できていなかった。民営化以前から存在した上位下達の組織風土の中で、内部通報を含め、現場の声が経営層に届かない組織体制だった」と指摘しているが、こうした職場風土を作り上げてきた責任は横山社長にある。日本郵便の横山社長は日本郵政の初代社長を務めた西川善文氏のもと、専務として在任しており、宅配便事業統合に際して「赤字試算」を出してきた当時の郵便事業会社に対して、「赤字試算の数字をだしてきたこと自体を叱責した」(日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会報告書 平成 22 年5月)と指摘しているとおり、現場の声を聞く事業運営を行うことはなかった。こうした経歴を持つ横山社長が、2016 年6月に日本郵便の社長に就任したことにより、最終報告書で防止できなかった構造的要因として「営業推進を重視し、負の情報を上司等に報告することを差し控えるような行動が一部に見られた」と指摘した組織風土がまん延したといっても過言ではない。

 

日本郵政の鈴木康雄上級副社長は、長門社長とともに取締役兼代表執行役であるとともに日本郵便の取締役を務めている。日本郵政グループ全体のガバナンス体制を執行していく立場にありながら、かんぽ生命の不正販売を報じたNHK「クローズアップ現代+(プラス)」に対し抗議を繰り返し、「取材拒否、NHKのガバナンス検証」を迫った当事者である。この間、「かんぽNHK問題野党合同ヒヤリング」や参議院予算委員会参議院総務委員会に参考
人として答弁してきたが、かんぽ生命の不正販売問題に対する真摯な反省を語ることはなかった。

 

さらに、総務省鈴木茂事務次官が、かんぽ生命不正販売問題における行政処分案の情報を鈴木康雄上級副社長に情報漏洩をしたとして、停職3カ月の懲戒処分となり、同日、辞職した。鈴木康雄上級副社長は、元総務省事務次官であり、現職中は郵政省放送行政局担当の審議官を務めた経歴を持っている。郵政省出身の鈴木事務次官に対し、元事務次官という立場を利用し行政処分の内容を事前につかもうとした行動は、行政機関に対する国民の信頼を失墜させた「犯罪的行為」だ。こうしたNHKに対する抗議や総務省行政処分案を事前に情報収集した一連の行動は、鈴木康雄上級副社長「一個人の行動」とは言えず、取締役兼
代表執行役としての長門社長の責任は重大である。もはや、長門社長及び鈴木康雄上級副社長は、日本郵政グループ全体の経営を担う資質がないことは明白であり、自ら職を辞して謝罪すべきである。

 

最終報告書でかんぽ生命保険不正販売の調査結果について明らかになった。対象期間は2014 年度から 18 年度までの5年間、顧客に不利益を与えた疑いのある契約約 18 万 3000 件(契約者約 15 万 6000 人)、このうち、約 14 万 8000 件(契約者約 12 万 8000 人)の顧客意向確認が終了し、法律や社内規定に違反している疑いのある契約が 12,836 件、12 月 15 日現在で法令違反と認められたのは 48 件、規則違反は 622 件。違反の疑いのある契約の顧客は女性が約 85%、男性が約 15%で 60 歳以上が 7 割以上を占めている。

 

簡易保険は、1916 年に「簡易な手続きで、国民の基礎的生活手段を保障する」という社会的使命をもって誕生し、全国の郵便局を通じて、地域や年齢、性別に関係なく、原則として誰でも無審査で加入できる「住民にとっての生命線」ともいうべき役割を担ってきた。現在の利用者状況は、「被保険者数は全人口の約2割に相当し、その内約6割を女性が占め、年齢別構成では 50 歳以上の中高年層が約7割、女性・中高年層に強みを有し、お客さま数 2799万人」(かんぽ生命ディスクロージャー誌 2018 年)となっている。

 

最終報告書では、「国民生活に欠かせない重要なインフラとして社会に貢献してきた。この郵便局に対する信頼こそが、株式会社かんぽ生命保険となってからも多数の顧客をあつめることができた」と指摘している。また、本契約問題の原因及び背景事情については「郵便局ブランドの悪用」として「高齢者の中には、郵便局は元国営組織であるから信頼できると考える人が多いため、これを利用して不適切な勧誘により加入させた郵便局員が一定数存在した」と指摘している。

 

長門社長は参議院総務委員会(11 月 12 日)で「お客様の方に不利益があるというケースがございましたら、最後の一人まで、一円に至るまできっちりと、しっかりと対応して不利益をお返ししてまいりたい」と答弁している。被害を受けた方への真摯な謝罪と確実な補償を早急に行うことを強く求める。

 

最終報告書ではパワハラの実態がヒヤリングのもと詳細が明らかになった。

①全社員の前で低実績者に対して名指しで責めたり、『お前は寄生虫だ』と叱責

②渡された原稿を一言一句覚えさせて、うまくできない場合はやり直しを強制

③土日休んで平気だったのか(実績が目標額に)行かない分どうするんだよなど、

現場の「生の声」があげられている。長門社長も会見で「社内で土下座させるなどパワハラ的なものがたくさんあった」と述べている。

 

郵政ユニオンは中間報告書に対する見解の中で目標達成できない社員への懲罰研修と社員の尊厳を傷つける「恫喝指導」の実態について告発し、すべての職場からパワハラをなくすことを求めてきた。最終報告書は「精神的に追い詰められた社員、その場で泣き出す女性社員、それを理由に退職した社員」がいたこともあげている。長門社長が会見で語った「事件は現場で、郵便局で起こった」との態度と同様に、日本郵便の横山社長も参議院総務委員会でパワハラまがいの研修について「把握していない」と述べるなど、日本郵便の社長としての資質が問われるもの言わざるを得ない。過度なノルマ、人権侵害ともいうべきパワハラによって多くの利用者に多大な不利益を被らせたたばかりか、日本郵便社員の健康を破壊し、退職を余儀なくさせた責任は横山社長にあることは明らかだ。

 

かんぽ生命の不正販売問題が全国的に広がった背景には、達成困難な営業目標、成果を挙げるため不正販売を助長するかの研修が支社・郵便局が一体となって行われてきたことにある。報告書では「募集人の一部にモラルに欠け、法令順守の意識が低く、顧客の利益よりも自己の個人的な利得を優先する者が存在した」としているが、こうした営業体制を作ってきた責任は日本郵便にある。違反の疑いに関与したとされている募集人 5796 人の個人責任のみだけでは、問題の解決には至らない。

 

最終報告書は現場の「生の声」を聞き取り、問題点、原因分析、改善策などを提言しているが、経営陣の責任については「調査の対象ではない」として認定していない。

 

郵政ユニオンは中間報告の見解(2019 年 10 月)において、「郵政事業が長年にわたって築きあげてきた信頼を損なう事態を招いた日本郵政日本郵便及びかんぽ生命経営陣の責任を厳しく問う最終報告書となることを強く求める」との見解を明らかにしてきたが、こうした点からも最終報告書は「不十分な内容」と言わざるを得ない。

 

同時に、ゆうちょ銀行における投資信託販売で、「高齢者に対する不適切販売」が 19,591 件あったことが明らかになっている。高齢者に被害が広がっている点において、かんぽ生命の不正販売問題と同じ構造であったと言える。

 

最終報告書は「個々の顧客の立場や心情に思いを致せば、生半可な対策で済まされるはずがないのは当然であり、大改革を遂げない限り、信頼の回復はあり得ない」と指摘している。


さらに、最終報告書は、「日本郵政グループの持つ組織、事業、資産の総体は国民全体の財産ということができる。『国民の財産』『国民のインフラ』が重大かつ深刻な危機を迎えている。


捉えようによっては郵政グループ各社が大改革を遂げ、これまでに勝るとも劣らない優れた財産を後世に引き継ぐことができる、まさに好機と言える」と表明した。こうした点からも、日本郵政日本郵便、かんぽ生命、ゆうちょ銀行の経営陣はそろって退陣することこそ「大改革の一歩」につながるものである。

 

郵政ユニオンは全容解明と、被害を受けた方への謝罪と補償、失った信頼の回復、さらに日本郵政グループの職場からパワハラを根絶させるため運動を強めていく。

 

以上

 

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http://www.piwu.org/kanpo_kenkai_2019.12.25.pdf

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https://www.japanpost.jp/pressrelease/jpn/2019/20191218149921.html

発表日:2019年12月18日

タイトル:日本郵政グループにおけるご契約調査の結果及び今後の取組について
日本郵政株式会社
日本郵便株式会社
株式会社かんぽ生命保険

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https://www.japanpost.jp/pressrelease/jpn/2019/20191218149909.html

発表日:2019年12月18日

タイトル:「かんぽ生命保険契約問題 特別調査委員会」からの報告について

日本郵政株式会社
日本郵便株式会社
株式会社かんぽ生命保険

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