「かんぽ生命保険契約問題 特別調査委員会」中間報告についての見解
2019年10月13日
郵政産業労働者ユニオン
中央執行委員会
かんぽ生命の不適正営業の実態が明らかになり、過去5年間における不正の疑いがある契約が18万3千件で、約2000万人の契約者に影響を及ぼす事態となった。こうした実態を背景に日本郵政、日本郵便及びかんぽ生命は、本契約問題に関する事案の徹底解明と原因究明を外部専門家に委ね、3人の弁護士で構成された「かんぽ生命保険契約問題特別調査委員会」を設置、9月30 日に中間報告をおこなった。
2007年10月1日に日本郵政グループ発足以降、ガバナンスが問題となった事例は今回のかんぽ生命問題が初めてではない。郵政民営化に伴い、2007年 10月 1 日に日本郵政公社が解散し、日本郵政株式会社の初代社長には西川善文氏(元三井住友銀行頭取)が就任したが、かんぽの宿の一括譲渡や宅配便事業統合(JPEX 事案)など強引な経営手法が社会問題となり、総務省は「日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会」を発足、平成22年5月に報告書(以下、ガバナンス報告書)を公表した。
民営化から12年の間で日本郵政のガバナンス及びコンプライアンスが社会問題となり、再びかんぽ生命の不適正営業問題で「調査委員会」なる組織によって検証しなければならない事態は極めて異例である。ガバナンス報告書では、「コンプライアンスの基本的な考え方を単なる法令・規則の遵守ではなく、法令・規則をベースにしつつ、日本郵政に事業と業務の公共的特性に応じて実質的に公正、公平性、透明性等を担保する趣旨に転換し、関連規程と社内組織の見直しを行うこと」が提言されたが、当時の教訓が日本郵政グループ全体で生かされてこなかったことによって、かんぽ生命の不適正営業問題が発生したといっても過言ではない。
なおガバナンス報告書には、西川社長時代の日本郵政の経営体制の実情について、「当時の日本郵政の経営の重心は経営会議ではなく、西川社長及び三井住友銀行出身者、特に『4人組』と称されている A 専務(執行役)ら4人の者あたりにあったと認められる。」とある。
A専務とは現在の日本郵便株式会社社長の横山邦夫氏であり、横山社長の責任は重大である。
特別調査委員会の中間報告書は、①「顧客本位の業務運営」という理念及び意識が現場に浸透していなかった②業務の縦割りの意識から部門間の連携が不十分であったと指摘しているが、最終報告に向けて原因の分析が必要である。「社内制度に関連する要因」の項では、「新規契約の獲得の偏った営業目標の設定、手当及び人事評価等の体系になっていた」と指摘しているが、2014年4月に導入された「新人事・給与制度」改正による弊害であることは明らかである。「新人事・給与制度」における渉外社員への手当に対する会社の考え方は、「頑張った社員がより報われる」「営業へのインセンティブを高め、成果を挙げた社員により厚く報いる」というものになっており、「顧客本位」という理念が後方に追いやられたといっても過言ではない。そのことは、8月23日に日本郵政グループ本社で開催された「フロントラインセッション」のなかでも参加した社員から、「推進管理ありきでお客様本位の営業活動ができていない。推進が上がらなければ、追いつめられるので、どうしてもお客様本位ではなく自分本位の営業活動になってしまう」との声が出され。横山社長は「自分本位の営業活動を行っている社員を本社が褒めるので悪循環になっていた」と認めた。中間報告から「顧客本位の業務運営」を郵便局における生命保険募集の現場にまで十分に浸透させていくというのであれば、社員の声を聞き、最終報告では新人事給与制度の見直しまで踏み込んだ指摘が必要である。
中間報告書は「組織体制及び業務運営態勢に関する要因」で、①営業設定のあり方②研修のあり方について指摘した。「営業目標の設定」については、「現場の営業の実力に見合わない目標金額が課せられていた」とし、「営業目標の達成を過度に重視した営業推進・管理がなされていた」と分析した。さらに、「営業推進を目的とする指導の際に、具体策を欠いた、『恫喝指導』と称する不適切な指導が行われていた」と、不適正な保険販売の原因と背景には目標金額設定(ノルマ)と「恫喝指導」があったことを明らかにしたことは重要な指摘である。
中間報告書は、「郵政民営化上の特例として、保険商品の設計について、他の生命保険会社とは異なる制約が課せられている」と、多様な保険商品を開発できないことなど「保険募集の困難性」を指摘した。こうした困難さを日本郵政、日本郵便及びかんぽ生命は十分認識していたのにもかかわらず、とりわけ、かんぽ生命が株式上場した2015年以降は、営業目標が「必達目標」となり、目標達成できない社員は「成績不良者」として〝懲罰研修〟が課せられてきた。研修内容は報告書が指摘した「恫喝指導」だけでなく、「社員の尊厳を傷つける研修内容」となっており、契約が取れない社員は研修や恫喝から逃れたくて不正販売に追いやられてしまった実例があり、「恫喝指導」をおこなってきた日本郵便の責任は重大である。具体策を欠いた「恫喝指導」は明らかにパワハラであり、見過ごすことはできない。日本郵便は7月、「一人ひとりの社員が活き活きと働ける職場とするために~ハラスメントを発生させない働きやすい職場づくり~」と題した冊子を発行した。 冊子の冒頭では、ハラスメントは社員の尊厳を傷つけ職場環境を悪化させる、見過ごすことのできない問題と位置づけ、「職場の皆さんが一丸となってハラスメントを発生させない働きやすい職場を作っていきましょう」と呼びかけている。日本郵便は生命保険募集の職場だけでなく、すべての職場から「パワハラ」をなくすことが早急に求められている。
最終報告は12月を予定されているが、日本郵政、日本郵便及びかんぽ生命に対し、中間報告で指摘された事項について早期に改善することを強く求めるとともに、郵政事業が長年にわたって築きあげてきた信頼を損なう事態を招いた日本郵政、日本郵便及びかんぽ生命経営陣の責任を厳しく問う最終報告書となることを強く求める。
以上
****
http://www.piwu.org/2019.10.13kanpo-kenkai.pdf
****
****
https://www.japanpost.jp/pressrelease/jpn/2019/20190930148757.html
2019年9月30日 日本郵政グループにおけるご契約調査の中間報告及び今後の取組について
****
https://www.japanpost.jp/pressrelease/jpn/2019/20190930148756.html
2019年9月30日 「かんぽ生命保険契約問題 特別調査委員会」からの報告について
****