9月5日 京都 最低賃金 異議申出書

9月5日 京都 最低賃金 異議申出書
 
 


2011年9月5日
京都労働局長
小池 國光様
ユニオンネットワーク・京都
田中 啓司
 
京都地方最低賃金審議会の答申に対する
異議申出書
 
 最低賃金法11条2項および同法施行規則8条の規定にもとづき、以下のとおり異議申出をおこないます。
 
【異議の内容】
 
1.2011年8月19日に公示された京都府の現行の最低賃金749円を2円引き上げ751円とせよという京都地方最低賃金審議会の答申は、最低賃金といえども働いて受け取る賃金としてはあまりにも低すぎます。
 最低賃金法の目的を実現するため2011年7月21日付「京都府最低賃金の改正審議にあたっての意見書」で求めたように、京都府最低賃金を時間給1000円以上にするか、それが無理ならば全国一律800円とすることを求めます。
 
2.上記から京都労働局長は、最低賃金法第10条2項に基づいて、最低賃金審議会に再審議を求めるべきだと考えます。
 
【異議の理由】
 
前提として引上げ額が少ないので昨年とほぼ同様の理由を述べます。
 
1、751円では低額すぎて、労働条件の改善を図ることも、労働者の生活の安定、労働力の質的向上および事業の公正な競争に資する、という最低賃金法1条の目的を達することはできません。
 
 何度も繰り返しますが、答申の751円では月174時間、働くとして130674円です。引上げ額は時給で2円なので、月額348円の引上げにしかなりません。最低賃金レベルで働く労働者は当然のことながら8時間労働では生活できないので、最低でも10時間前後、週6日は働く設定しても月額525円の引上げにしかなりません。
 最低賃金が751円という水準では、どのようにしても最賃法1条の目的を実現することはできません。京都市の単身者の住宅扶助額である42500円を差し引きけば約88174円です。そこから税金、社会保険料などを差し引けば、食べていくだけでぎりぎりの賃金です。
 これでどのような「労働条件の改善や、生活の安定、労働力の質的向上に資する」ことができるのか想像することすら困難です。また労働者に食うや食わずの賃金を押し付けて事業の公正な競争に資することなどありえません。
 
2、低額すぎる最低賃金セーフティーネットの役割を果たすことができず貧困を拡大する役割をはたすようになります。
 
 答申の金額は低すぎて最低の生活すら保証できないというだけではなく、長時間労働と貧困の拡大につながる低賃金を固定化していく役割を果たすことになります。
 低すぎる最低賃金長時間労働を必然化します。意見書でものべたように、最低賃金が時間外労働の計算基礎額に設定されている地場のトラック労働者では、月100時間以上の過労死基準を上回る長時間労働が標準となるような働き方を強制されています。家庭生活も犠牲となります。低賃金と合わせて子供の教育をはじめとする良好な育成環境が奪われ、貧困を拡大していく梃子となり貧困の連鎖へとつながります。このような状態になれば、セーフティーネットとは逆に、以前よく言われていた「低賃金の重しとしての最低賃金」ということになってしまいます。
 
3、最低賃金生活保護基準を上回るべきです。
 
 最賃法改正の際の国会審議において、「生活保護に係わる施策とのとの整合性に配慮する」という規定の前に、「労働者が健康的で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう」という文言が追加されたのは、「生活保護の水準を下回らない」ということをより強く意識してのことです。最低賃金は働く労働者の最低生活を保証する賃金ですから、生活保護基準を上回るのは当然のことです。
 現行の生活保護費を基準にすると、地方と大都市では生活保護費に大きな差があるので、地方と大都市の最低賃金でも格差が拡大することになります。2010年度でも最高の東京の821円と沖縄、佐賀、長崎、宮崎、鳥取、島根、高知の642円とは179円の格差があり、月額にすれば約3万1千円程度の差となります。昨年に引き続き格差は拡大しています。。これは2でのべたような問題と結合し、地方における貧困を拡大し、大都市と地方の格差を拡大していくことに結果します。
 毎年指摘していますが厚労省生活保護基準の算定方法は問題があります。厚労省は比較対象の生活保護基準を、「若年単身世帯(12歳~19歳)」の「生活扶助基準(第1類+第2類+期末一時金扶助費)の都道府県内人口加重平均に、住宅扶助の実績値を加えた金額」としています。
 生活扶助費については、人口加重平均が用いられていますが、給付額の高い1級地―1を基準とすべきです。京都府の場合、京都市が1級地の1であり京都府最低賃金の検討の際にも、1級地の1の生活扶助を採用すべきです。人口加重平均を基にした最低賃金では高い級地の労働者に適用される最低賃金が、生活保護基準を下回ってしまいます。
 住宅扶助については、実績値が採用されていますが、生活保護の住宅特別基準を採用すべきです。実績値では、一般的な労働者が通常探しうる賃貸物件よりはるかに低い金額となります。
 また勤労控除が算定されていません。働いていれば、当然のことながら必要な経費としての支出が増えます。勤労控除を算定に入れないことには、働いて得た賃金が生活保護を下回る事態が続くことになります。
 京都地方最低賃金審議会は問題が多い厚生労働省の算定基準を基準にするのではなく上記の点を勘案し決定すべきです。
 
4、国際的にみても日本の最低賃金は低すぎます。
 
 日本の最低賃金主要先進国のなかで最低の水準となっています。フランス、アイルランド、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、ベルギーなどでは1000円以上であり、全国加重平均で730円という水準は論外の低水準といえます。また平均賃金にしめる割合から見ても日本はわずか28%ですが、欧米諸国ではフランスは47%、オランダは46%、イギリスは37%、ルクセンブルグは50%、などです。ヨーロッパでは平均賃金の50%が貧困と定められ、最低賃金はまずその水準をめざすということがはっきりさせられているからです。日本の最低賃金は国際的にみて低水準にあることが認識され問題視されるべきです。
 
5、密室審議という手続き上の決定的な不備があり、そのような手続きで決定された答申が正当性をもつとは思えません。
 
 今年初めて審議会での意見聴取が行われユニオンネットワーク・京都として意見表明をおこなうことができました。遅ればせとはいえ前進であると評価しています。
 しかし本年の意見書でも述べてきましたが、肝心の金額に関する議論をおこなう専門部会がまったく非公開でおこなわれています。最賃審議会の審議は原則公開のはずです。労働局交渉などで、非公開にすることができると定めている運営規程の3つの理由のどれにもとづいて、非公開にしているのかと説明を求めても回答がありません。貧困が拡大し最低賃金がこれだけ社会的関心を集め、影響を受ける労働者が増大している中で、金額審議を公開しないということは社会的に通用しません。最賃法や運営規程にもとづかない方法で審議がおこなわれ、決定された金額と言わざるを得ません。結論的に、手続きに本質的な不備があるので、答申は認められないと言わざるを得ません。
 
6、東日本大震災からの復旧・復興のためにも最低賃金は全国一律、最低1000円以上とし、それがどうしても不可能というならば雇用戦略対話を踏まえ最低でも800円とすべきです。
 
 以前から繰り返し述べていますが、最低生活を保証する最低賃金が各都道府県によって異なっていることの理由は全く理解できません。聞く限りでは各県別の最低生活費は異なるという意見がその論拠のように思われますが、その最低生活費の計算の仕方は厳密ではありません。
 今日では収入の拡大に重要な役割を果たす、教育や情報への地方からのアクセスの困難さ、医療を受ける際の困難、などは考慮されていません。働く労働者の最低生活を保証する最低賃金は全国一律とするということは、現行の大都市と地方の格差を縮小していく上でも必要ですし、最低賃金がその格差を拡大していくことを防ぐ意味でも重要です。
 被災地を励ます意味でも全国一律最賃制度は重要です。宮城全労協の仲間はその意見書で「大震災は最低賃金が全国一律の制度であることの意味を示しています。被災県の最低賃金引き上げが大震災との関係で困難とされることは、被災地の民衆生活に対する二重の打撃となるからです。特に被災地での審議においては全国一律の立場が強調されるべき」と述べています。
 被災地の東北各県は地方切り捨て政策の結果、全国加重平均の730円をはるかに下回る600円台半ばです。目安でも宮城などは厚生労働省の計算でも生活保護是正のためには8円の引き上げが必要とされていますが、目安提示では1円引上げにとどめられています。これは本末転倒というべきことです。
 復旧、復興というならば大幅に最低賃金を引き上げることが先決です。そうしなければ震災による雇用状況の悪化のなかで低賃金がはびこり生活ができなくなります。
 最低賃金制度を全国一律とし1000円以上に引き上げれば、被災した多くの人々を勇気づけ復旧・復興に向けた大きな力となります。
 全国一律、最低1000円以上とすることを、私たちは長年にわたって要求しています。それができないならば意見書でも述べましたが「できる限り早期に全国最低800円を確保し、景気状況に配慮しつつ全国平均1000円を目指す」という「雇用戦略対話の合意」を踏まえ、2011年度は800円とすることを求めます。
 
7、労働局長は、再審議を求めるべきです。
 
 最賃法10条にあるように最低賃金を決定するのは厚生労働大臣、労働局長です。「その理由は最低賃金は、社会政策的、労働政策的、かつ経済政策的な意義と効果とを有し、我が国のその他の社会政策、労働政策および経済政策と緊密かつ重要な関連をゆうするものである(最低賃金法の詳解)」からです。労働局長には、独自の立場から最賃法第9条の三原則を検討し審議会の意見によりがたいか否かを判断することが求められています。
 上述してきたように京都地方最低賃金審議会では、必要な見地から十分な議論がおこなわれているとは伺えず、その結果、751円というきわめて低額での答申が出されていると考えています。京都労働局長は京都府で必要とされる最低賃金の水準としては、地域における労働者の生計費および賃金を考慮すれば京都府最低賃金としては低すぎることを理由として最低賃金審議会に再審議を求めるべきであると考えます。
 
以上
 


 
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