労契法20条の骨抜き図る判決にヤマト運輸組合員が控訴 / 全労協新聞 2017年9月号

労契法20条の骨抜き図る判決にヤマト運輸組合員が控訴 / 全労協新聞 2017年9月号


全労協
http://www.zenrokyo.org/

全労協新聞
http://www.zenrokyo.org/simbun/sinbun.htm
より



●全国一般宮城合同労組
労契法20条の骨抜き図る判決に
ヤマト運輸組合員が控訴



ヤマト運輸においては社内規定により、遠距離正規ドライバーの賞与は支給月数の百%以上のプラス査定で支給され、同じ時間帯に同じ経路を走る遠距離非正規ドライバーの賞与は支給月数の四〇〜百二〇%に査定されて支給される。しかも宮城ベース店の遠距離非正規ドライバーの場合、いずれも四〇〜八〇%のマイナス査定を受けていた。二〇一四年の宮城合同労組との団体交渉で、組合が労働契約法二〇条違反に当たる差別査定の撤廃要求をしたところ、会社は「決めた制度だから直すつもりはない」と開き直った。

団交が決裂して二〇一五年、組合員畠山健治さんが差別査定による損害回復を請求してヤマト運輸仙台地裁に訴え、地域の仲間で裁判を支援してきた。そして三月三十日、地裁が不当な棄却判決を言い渡した。

地裁は、
①正規は役職者以上への任命があり、非正規にはそれがない
②正規には配転があり、非正規にはそれがない
③正規は期待され、非正規は期待されていない
④社内組合(運輸労連)が合意している、
という「事実認定」のもと、
正規と非正規とでは業務内容等が相違するので査定制度の相違が不合理だとは言えないし、原告へ査定が裁量権の濫用に当たるとも言えない、と結論付けた。

地裁は、①と②を認定するに当たり、遠距離ドライバーについて正規と非正規を比較したのではない。遠距離正規ドライバーも非正規と同様に昇進・配転がなく、したがって「相違」を認定することはできない。

そこで地裁は何としても「業務内容等の相違」を認定して「労働条件の相違」を正当化するために、もともと採用条件も業務内容も異なる、街中で配達・集荷・営業を行う正規セールスドライバーをも畠山さんら遠距離非正規ドライバーとの比較対象に拡大した。そのうえで昇進・配転に関する正規と非正規の「相違」を取り繕ったのである。このヤマト判決の一週間前に出たメトロコマース東京地裁判決では、当該原告らが勤務する地下鉄駅売店の範囲で正規と非正規を比較するのではなく、当該と比較する正規の範囲を正規全体に拡大し、そのうえで「業務内容等の相違」を認定している。

なお、③のごとく「期待の度合い」といった使用者の主観に属する事項を判断要素に組み込み、二〇条の骨抜きに使ったのは仙台の「独自性」と言える。

また、地裁が「不合理とは言えないその他に事情」として取り上げた④について言っておかねばならない。運輸労連と合意しても宮城合同労組の組合員である畠山さんにその合意が不利益に働くことはない。私は控訴審で提出した陳述書にそのことを書いた。運輸労連は、非正規差別に利用されてはならない。

七月二十六日、初回控訴審が行われた。原告側は新たな証拠数件を提出して十分調べるよう求めた。しかし仙台高裁は初回で結審を宣言して判決日を十月十一日に指定した。再び不当判決が繰り返される可能性がある。比較対象の拡大によって労働契約法二〇条を無力化する司法の手口を許すわけにはいかない。

(宮城合同労組委員長
星野憲太郎)