最低賃金13-36 兵庫最低賃金意見書 4

最低賃金13-36 兵庫最低賃金意見書 4


4.兵庫の最低賃金を、1200円以上への引き上げを

 兵庫県議会は、「安定的な雇用を実現するための対策を求める意見書」(2007年(平成19年)3月19日)を採択しています。その第1項目は「最低賃金を安定した生活ができる水準まで大幅に引き上げることで、セーフティネットとしての機能を充実させること。」です。
 しかし、「最低賃金を安定した生活ができる水準まで大幅に引き上げること」はいまだに実現できていません。

① 現在の700円台の最低賃金は低すぎます。大幅な引き上げが必要です。

 現在の最低賃金は、749円です。
 仮に1000円まで引き上げたとして、週40時間フルに働いてやっと額面がワーキングプアと呼ばれる年収200万円を超える計算になります。月平均150時間であれば、年180万円であり、200万円に届きません。この収入から、家賃、食費、医療費、親の介護費、子どもの教育費等を支出した場合、「労働者の生活の安定」は望めません。
 安定した生活ができないので、過労死する危険を冒しながら複合就労するか、長時間労働で収入を増やすか、何とか生存を維持するだけの生活を送るか、という選択を強要されているといっても過言ではありません。
(過労死に関しては、兵庫県議会が「国による総合的な過労死防止対策の実施を求める意見書」(平成25年6月12日)、神戸市議会が「過労死防止基本法の制定を求める意見書」(平成24年10月23日)を採択しています。)
 「労働者の生活の安定」のためには、大幅な最低賃金の引き上げ、1200円への引き上げが必要です(1200円の月150時間で、年200万を少し超えます)。

② 国際的に見ても日本の最低賃金は低すぎます

 2010年(平成22年)6月3日の雇用戦略対話に提出された「最低賃金に関する資料集」に、「各国の最低賃金水準(労働者一人当たり平均賃金との比較)」(出典OECD Stat)が示されています。この資料には、21か国の比較が示されています。日本は21か国中、19番目という低い位置になっています。
 日本の最低賃金を労働者一人当たり平均賃金と比較すると、約3割程度の水準となっています。それに比べ、ニュージーランド、フランスなどは5割を超えています。

 2011年6月16日付「最低賃金制度の運用に関する意見書」(日本弁護士連合会)では、「海外先進諸国の最低賃金の水準に比較してみても、時間給金1000円というのは平均的なものである」として、イギリス-1089円(2008年)、フランス-1319円等(イギリスは2010年、フランスは2011年には更に引き上げ)の金額を示しています。
 このように国際的視点で見た時、日本の最低賃金は低すぎます。

③ 国連・社会権規約委員会が、「最低賃金…上昇する生活費に満たない」と懸念を表明

 今年の国連・社会権規約委員会では日本政府の報告が扱われ、日本への総括所見(2013年5月17日)では、労働問題について何点もの勧告が行われています。以下、ヒューライツ大阪「日本の社会保障、雇用制度に対して懸念、国連社会権規約委員会」から労働関係を抜粋すると、
「有期雇用の濫用を防止し、無期雇用契約への転換回避の雇い止めが起らないようモニターすること」、
「過労死や職場のハラスメントによる自殺などが起っていることに対し、長時間労働を防止する措置を強化し、職場におけるあらゆる形態のハラスメントを防止、禁止すること」、
「労働者とその家族が人間らしい生活を確保できるよう最低賃金を決定する際考慮する要素を見直すこと」、
「賃金の格差、特に男女の賃金格差が大きいことについて、同一価値労働同一賃金の原則の雇用者、労働基準監督官などへの周知、啓発をおこなうこと」、
「セクシュアル・ハラスメントを禁止し、処罰すること」、
非正規滞在、庇護申請者、難民を含む移住労働者に在留資格に関わらず労働法が適用されることを周知すること」
などの勧告がなされています。
 その他にも色々と取り上げられており、詳しくは、外務省の「社会権規約 規約第16条及び第17条に基づく第3回政府報告に関する社会権規約委員会の最終見解 2013年5月17日 仮訳」を参照してください。

 最低賃金について、外務省のホームページを見ると、
「18. 委員会は締約国内の最低賃金の平均水準が最低生存水準及び生活保護水準を下回っていること、並びに生活費が増加していることに懸念を表明する。(第7条、第9条、第11条)
 委員会は締約国に対して、労働者及びその家族に相当程度の生活を可能にすることを確保する観点から、最低賃金の水準を決定する際に考慮する要素を再検討することを要求する。また、委員会は、締約国に対して、次回定期報告の中で、最低賃金以下の給与を支払われている労働者の割合に関する情報を提供するよう要請する。」
と、日本の最低賃金に対する懸念を表明し、「最低賃金の水準を決定する際に考慮する要素を再検討することを要求」しています。

 日本が批准しているILO「1970年の最低賃金決定条約(第131号)」第3条に「最低賃金の水準の決定にあたつて考慮すべき要素」が規定されています。同じく「1970年の最低賃金決定勧告(第135号)」のⅡ「最低賃金の水準を決定するための基準」に、「(a) 労働者及びその家族の必要 (b) 国内の賃金の一般的水準 (c) 生計費及びその変動 (d) 社会保障給付 (e) 他の社会的集団の相対的な生活水準 (f) 経済的要素(経済開発上の要請、生産性の水準並びに高水準の雇用を達成し及び維持することの望ましさを含む。)」と規定されています。ここには、日本の最低賃金法第9条2項に規定されている「通常の事業の賃金支払能力」は含まれていません。
 日本のあまりに低すぎる最低賃金に対して、その引き上げと、低額の背景に法律の「事業の賃金支払い能力」があり、最低賃金法の見直を求めていると言えます。


④ 雇用戦略対話を踏まえ、1200円以上にすることを念頭に置いて最低賃金の引き上げを

 2010年(平成22年)6月3日の第4回雇用戦略対話で、「2020年までの目標」として、「できる限り早期に全国最低800円を確保し、景気状況に配慮しつつ、全国平均1000円を目指す」ことが合意され、この目標が「できる限り早期」に達成できるよう取り組む、とされています。

 さらに2010年(平成22年)12月15日の第6回雇用戦略対話で、「雇用戦略・基本方針2011」が確認され、最低賃金引上げにより最も影響を受ける中小企業に対する支援、「最低賃金引上げ支援対策費補助金」が開始されています(現在は、地域別最低賃金額が720円以下の道県に事業所を置くものに限られており、兵庫県は対象外となっています)。

 兵庫の最低賃金審議に当たっても、この2010年6月3日の合意に基づき、全国平均を1000円に引き上げる位置、すなわち、少なくとも1200円以上にすることを念頭に置いて、審議を行ってください。


⑤ 安倍政権下で物価は上昇しており、最低賃金の大幅な引き上げが必要
 
 今年の中央最審議会への厚生労働大臣からの諮問は例年と異なり、「現下の最低賃金を取り巻く状況を踏まえ、経済財政運営と改革の基本方針(平成25年6月14日閣議決定)及び日本再興戦略(同日閣議決定)に配意した」、調査審議を求めています。基本方針には「最低賃金引上げに努める」ことが明記されています。

 そして、7月2日の中央最低賃金審議会に大臣が出席し、「すべての所得層での賃金上昇が求められている」「今後、物価上昇が想定される中、賃金や家計の所得が増加しなければ、消費は息切れし景気は腰折れする」として最低賃金の大幅引き上げを要請したと報じられています。

 また、産経新聞は「最低賃金2%超上げへ」の見出しで、「安倍晋三政権が2%の物価上昇を目標に掲げていることを踏まえ、経済回復基調が幅広く国民に行き渡るよう2%を超える引き上げ」「賃金の引き上げ幅を物価上昇目標を上回る数字にする」と報じています。

 低賃金層は、2%の物価上昇に対して、2%賃金引上げでは、生活は全く改善されず、それどころか生活が悪化します。すでに円安によって、物価が上昇してきています。従って、政府が、最低賃金を「2%を超える引き上げ」を求めるのは当然です。

 ただ、2%の引き上げでは、約15円の引き上げにしかならず、兵庫の場合、800円にも程遠く、低賃金層の生活は改善されません。大幅な引き上げが必要です。


【参考】



(神戸)