最低賃金13-36 兵庫最低賃金意見書 5

最低賃金13-36 兵庫最低賃金意見書 5


5.最低賃金法改正の意義、生活保護に係る施策との関係を考慮した最低賃金の大幅引き上げを

 2008年(平成20年)7月1日から施行されている改正最低賃金法では、第9条3項で、「労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとする」と、「生活保護に係る施策との整合性」が明記されました。これは、最低賃金生活保護を下回っている状況があったため、少なくとも「最低賃金生活保護を下回らない水準となるようにする」、ということです。

 安倍政権の下で、この8月から生活保護基準が下げられますが、物価が上昇している中で、生活保護の引下げそのものが大問題です。

① 厚労省の評価方法でも、兵庫県は今年も生活保護との逆転現象

 2013年7月22日に開催された「第2回目安に関する小委員会」で示された資料「生活保護最低賃金」で、「生活保護」が「最低賃金」を上回る逆転現象が、11都道府県に拡大したことが明らかにされています。この逆転現象の中に、兵庫県も含まれています(兵庫県の場合は4円)。

 2011年8月5日の兵庫労働局の発表では、「今年度で解消することとし、さらに2円上積みした」としていましたが、結局上積みが十分ではなく、2012年8月6日の発表で「平成23年度の兵庫県最低賃金の改正(時間額739円)を考慮しても10円下回っていたことから、これを今年度で解消することとしたものである。」との発表でした。
 結局、兵庫の場合、毎年、改定時期に生活保護と比較した際には生活保護を下回っており、引き上げ額は十分ではなかったと言えます。新しく審議委員になられた方は別として、以前から審議委員であった方は、ここ何年かの最低賃金の引き上げ額が不十分であったことを反省し、大幅引上げに尽力すべきです。

【参考】
最低賃金13-21 記事「最低賃金生活保護費未満、11都道府県に増加」、他




② 審議会の「生活保護基準」の見直しを

 審議会が採用している生活保護基準を基にして最低賃金を改定しても、常に、働いて受け取る賃金が生活保護以下である労働者を生み出し続けます。
 生活保護基準について見直しを求めます。

生活保護基準の取り方についての労働者側の批判については、2008年8月6日付「平成20年度地域別最低賃金額改定の目安について(答申)」の中に収録されている「中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告」の労働者側見解にごく簡単に要旨がまとめられていますので参照して下さい。)

 また、2011年6月16日付「最低賃金制度の運用に関する意見書」(日本弁護士連合会)では、「最低賃金と比較すべき生活保護の水準は、若年単身者のみならず、子どもの養育を行っている世帯も加えるべきである」、「月間150時間程度就労に従事することを念頭に行うべきである」などとしています。
(兵庫弁護士会の2011年7月28日付「最低賃金の引き上げに関する会長声明」の中でも「生活保護基準との整合性の確保」を求めていますが、その際も日弁連の意見書を念頭に置いておくことが必要です。)

 審議会は、兵庫労働局に、現在採用している生活保護基準だけでなく、指摘されている問題点を踏まえた上での資料を作成・審議会に提出すること、そうした資料等を兵庫労働局のホームページに掲載することを要請してください。そうした資料を兵庫労働局が提示することによって、審議が充実するとともに、審議会・労働局に対する意見表明・異議申出等も内容のあるものになります。



6.時間給1200円以上を出すための政策の議論と答申・建議を

 周知のように最低賃金法21条(権限)で、「地方最低賃金審議会にあつては、都道府県労働局長の諮問に応じて、最低賃金に関する重要事項を調査審議し、及びこれに関し必要と認める事項を都道府県労働局長に建議することができる。」とされています。
 この間、中央最低賃金審議会の答申の第4項の中で「中小企業に対する支援」や「行政機関が民間企業に業務委託を行っている場合」について触れています。北海道の審議会答申(要旨)では、「行政機関が民間企業に業務委託を行っている場合」について、つまり「公契約」の問題に触れています。このように地方の審議会でも引き上げ金額に限定することなく、審議・答申が行われています。
 審議会では、雇用戦略対話の合意の実現のために、単に諮問に対する金額の答申にとどまることなく、必要な施策(中小企業に対する支援や公契約に関して)等についても積極的に議論することが必要です。
 そうした政策建議のために兵庫労働局が積極的に情報提供しているのか、労働局の発表(ホームページ)からは全く分かりません。
 審議会では、最低賃金の引き上げ金額に限定することなく、政策に関しても議論してください。

① 兵庫県下での先駆的取り組みの経験を生かして政策の議論を

 兵庫労働局は、2008年(平成20年)10月22日に、連合兵庫・兵庫県経営者協会・兵庫県とともに、『仕事と生活のバランス」ひょうご共同宣言』を発表されています。その中で全国に先駆けたこの取り組みが、大きな流れとなって国の行動指針になっていった旨が記されています。
 同様に、最低賃金の審議に関しても、全国に先駆けて1200円以上に引き上げていくにはどうすれば良いのかという政策議論、答申・建議を引き出すような、積極的な取り組みが求められています。

② 国連・社会権規約委員会の勧告を踏まえて、最低賃金法の改正を

 先に触れたように、国連・社会権規約委員会の勧告、ならびにILO条約を踏まえ、最低賃金法から「通常の事業の賃金支払能力」を削除するよう建議してください。

③ ILO条約第94号(公契約における労働条項に関する条約)の批准を

 官制ワーキングプアを生み出さないようILO条約94号(公契約における労働条項に関する条約)の批准が必要です。
 兵庫県議会は、全国に先駆けて2002年(平成14年)12月19日に「公共工事における建設労働者の適正な労働条件の確保を求める意見書」を採択・提出しています。県下の各自治体でも同様の主旨の意見書が採択されています。
 また、日本弁護士連合会は、2011年4月14日付「公契約法・公契約条例の制定を求める意見書」で、全国の地方自治体に対し、貧困問題・ワーキングプア及び男女間賃金格差の解消の見地から公契約に基づいて労務に従事する者たちの適正な労働条件を確保するために、公契約を規制する条例(公契約条例)を積極的に制定することを要請しています。
 こうしたことを踏まえ、最低賃金審議会として、ILO条約第94号の批准を建議してください。

④ ILO条約第175号(パートタイム労働に関する条約)の批准を

 非正規職労働者・パートタイム労働者の賃金・労働条件の引き上げのためには均等待遇を定めているILO条約第175号の批准が必要です。
 神戸市議会では、「パートタイム労働に関連するILO条約の早期批准等に関する意見書」(2002年(平成14年)12月20日)を採択しています。県下の他の自治体でも同様の請願・意見書を採択しています。
 こうしたことを踏まえ、最低賃金審議会として、ILO条約第175号の批准を建議してください。

⑤ 改正労働基準法 ~残業割増しの中小企業への適用を~

 2010年(平成22年)4月1日から適用されている改正労働基準法では、1か月60時間を超える時間外労働を行う場合は、割増賃金率は50%以上とれています。ところが、「中小企業については、当分の間、適用が猶予」されています。これは、労働者を、大企業と中小企業で差別するひどいものです。
 正社員の長時間労働と、低賃金と不安定雇用の非正規の増大という働き方の二極化は同時に進んできました。長時間労働を抑制し、非正規職の雇用の安定や収入の増大のために、残業割増の中小企業への適用猶予を止めるべきです。
 最低賃金審議会として、改正労働基準法の残業割増の中小企業への適用猶予を止めるよう建議してください。

⑥ 全国一律最低賃金 ~最低賃金をまずは800円以上とする法制度整備を~

 雇用戦略対話の合意を実現するために、まず、全国一律最低賃金の最低金額を800円以上と規定し、その上で、全国平均1000円を実現するような、法的整備や施策が必要です。

 2008年7月の改正最低賃金法施行を通じて、以前に比べれば大幅な引き上げがされており評価できますが、その一方で最低賃金の高い地域と低い地域の最低賃金との格差は年々拡大しています。最も高い東京(850円)と、最も低い高知など(652円)との間で、差は198円になっています(差額は、2011年192円。2007年121円。)。
 都市と地方の格差拡大が問題視されるなかで、現行の目安・地方審議会方式による最低賃金の引き上げは、都市と地方の賃金格差を更に拡大させている、と言わざるをえません。
 現行の目安・地方審議会方式のままでは、低い地方が2020年に800円を達成するのは、困難です。そこで、中小企業に対する支援策等の検討と共に、一旦、全国の最低賃金を800円以上と定める等の法制度整備が必要です。最低賃金審議会として、建議してください。

*  *  *

 以上を踏まえ、兵庫県最低賃金を、「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営む」ことができる賃金、「労働者の生活の安定、労働力の質的向上」に値する最低賃金に引き上げること。
 そのため、時間給を1200円以上にすることが必要であると考えます。

以上



(神戸)