最低賃金15-54 日弁連 ブックレット「社会権規約委員会総括所見の活かし方と今後の課題~第3回日本政府報告書審査をふまえて」

最低賃金15-54 日弁連 ブックレット「社会権規約委員会総括所見の活かし方と今後の課題~第3回日本政府報告書審査をふまえて」

最低賃金以外にも、色々な労働・人権にかかわる課題があがっている。


2015年09月14日  ブックレット「社会権規約委員会総括所見の活かし方と今後の課題~第3回日本政府報告書審査をふまえて」を掲載しました

http://www.nichibenren.or.jp/activity/international/library/human_rights/society_report.html
社会権規約 報告書審査

ブックレット「社会権規約委員会総括所見の活かし方と今後の課題~第3回日本政府報告書審査をふまえて(PDFファイル;8.3MB)



項目18 最低賃金

 委員会は締約国内の最低賃金の平均水準が最低生存水準及び生活保護水準を下回っていること,並びに生活費が増加していることに懸念を表明する。(第7条,第9条,第11条)
 委員会は締約国に対して,労働者及びその家族に相当程度の生活を可能にすることを確保する観点から,最低賃金の水準を決定する際に考盧する要素を再検討することを要求する。また,委員会は,締約国に対して,次回定期報告の中で,最低賃金以下の給与を支払われている労働者の割合に関する情報を提供するよう要請する。



(1)問題の所在

 2007年に最低賃金法が改正され(2008年7月施行),最低賃金を定めるにあたっては労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう,生活保護水準(最低生活基準)との整合性をはかるものとされた。
 最低賃金で働いても,1か月の収入が生活保護水準にも満たない,いわゆる逆転現象が複数の都道府県で起こっていることは,かねてから指摘されていた。上記の法改正は,その逆転現象を解消することを目的としたものである。政府は,2014年度の最低賃金改訂(引き上げ)によリ,日本の全ての都道府県において,逆転現象は解消されたと公表した。しかし,改定されたといっても,2014年度の最低賃金の全国平均は780円であり,最も高い東京でも888円である。1曰8時間,月22日間働いたとしても,月額給与は15万6288円にしかならない。日本の最低賃金が,依然として極めて低い水準にあり,大幅な引き上げが必要であることには変わリない。また,2013年8月から2015年4月まで,3回にわたって生活保護基準の引き下げが行われておリ,そのことが逆転現象解消の一因となっていることも忘れてはならない。

(2)審査の状況

 本審査において,委員からは,最低として何を提供することになるのか,例えば適切な生活水準であるとか,あるいは適切な生活を保障できるとか,そういうことも重要だということが規約に書いてあるわけで,最低賃金さえ確保されればいいという面が時々あるのも非常に問題だと指摘されている。また,日本の最低賃金法には,最低賃金額決定の考慮要素の一つに「通常の事業の賃金支払能力」があるが,これが使用者によって濫用されてはいないだろうかとの懸念が指摘されている。
 これに対し,政府は,①労働条件というのは最低条件からさらに向上させていくことが必要で,それは法律にも言いてある,2007年に最低賃金法を改正して生活保護水準を下回ることのないように最低賃金を定めるということが法律に規定され,現在は特にそこを意識した基準設定になっている,②国と地方と二つ審議会を設けて,その構成は公・労・使の三者構成になっていること,まず国の審議会で全体の目安を立てて,後に地方でそれぞれ地域の実情に合った水準を定めるという設定をしていることから,「通常の事業の賃金支払能力」の観点からだけ決めているわけではない,と説明した。

(3)今後の取組のポイント

① 政府は,2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」において,2020年までの目標として,「全国最低800円,全国平均1000円」にまで最低賃金を引き上げることを明記している。1年あたり40円以上引き上げなければ達成できない目標である。しかし,実際はそれに至らず(2013年度の全国平均は764円,2014年度のそれは780円であり,わずか16円の引き上げ),目標達成の見込みはなお不明である。日弁連は繰り返し最低賃金改定に対する意見を表明しているが(2014年7月24日「最低賃金額の大幅な引上げを求める会長声明」等),さらに労働者の意見を結集し,「働いても働いても食べていけない」実態を政府に突きつけていく必要がある。

② せめて物価の上昇分は最低賃金に反映されるよう,中央・地方最低賃金審議会の審議のあり方にも注目し,意見を述べていくべきである。

③ 「逆転現象」解消のために生活保護水準を引き下げるのでは,本末転倒である。生活保護を利用する生活困窮者と,低賃金に苦しむ労働者のいずれにも,「人間らしい生活」が保障されるよう政府に働さかけていくべきである。




関連
▼今年も取り上げている。

http://blogs.yahoo.co.jp/okasinaunion/33598753.html
最低賃金15-42 要望2件 「資料に、地方議会からの意見書を」、「資料に、2013年5月の国連・社会権規約委員会の最終見解を」

http://blogs.yahoo.co.jp/okasinaunion/33297435.html
最低賃金15-06 中央最低賃金審議会 (目安制度のあり方に関する全員協議会)の資料に


▼最初の取り上げ

http://blogs.yahoo.co.jp/okasinaunion/32007376.html
最低賃金13-25  最低賃金審議会資料に、今年5月の国連・社会権規約委員会の最終見解を