2015/04/03/ 長時間労働を肋長し過労増大につながる 労働基準法等の改正(案)の閣議決定に反対する会長声明 (兵庫県弁護士会)

2015/04/03/ 長時間労働を肋長し過労増大につながる  労働基準法等の改正(案)の閣議決定に反対する会長声明 兵庫県弁護士会) 


「長時間労働を助長し過労増大につながる労働基準法等の改正(案)の閣議決定に反対する会長声明」2015.4.3


長時間労働を肋長し過労増大につながる
労働基準法等の改正(案)の閣議決定に反対する会長声明

                 2015年(平成27年)4月3日
                兵庫県弁護士会 会長 幸 寺  覚


1 平成27年4月3日,政府は,「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」の創設,現行のフレックスタイム制及び企画業務型裁量労働制の見直しなどを内容とする労働基準法等の一部改正(案)を閣議決定した。


2 「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」は,一定の労働者に関し,労働時間規制を適用除外とする制度である。対象とされる労働者は「高度の専門的知識,技術又は経験を要する」「業務に従事した時間と成果の関連性が強くない」業務に従事し,「労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を1年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準」以上であって,省令により決定される具体的な額以上の者とされる。

 しかし,労働基準法(第4章)は,憲法27条に基づき,長時間労働を抑止し,労働者の生命,健康を保特する目的で,1日8時間1週40時間の法定労働時間を超える労働の禁止,週1回の休日を規定し,例外的に法定労働時間を超えた労働や休日労働をさせるためには36協定を締結したうえで,時間外割増賃金,休日割増賃金,さらには深夜割増賃金の支払を義務づけ,これにより時間外労働・休日労働・夜間労働などを制約してきた。「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」が導入され上記のような労働時間規制が適用されなければ,労働者の生命,健康が脅かされることになる。


 「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」における長時間労働等に対する対策は,具体的には省令で規定されるうえ,①24時間労働経過前の休息時間付与・深夜業務回数制限,②在社及び社外労働時間の上限規制,③4週を通じ4日(年1 日)の休日確保のいずれかに限定され,きわめて不十分といわざるをえない。よっ,「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」が導入されれば,24時間超勤務や休日なし労働も可能であり,労働者の生命・健康に甚大な影響を与えるおそれが極めて強い。


 また,収人要件が設けられているが,審議の過程において経営者団体が年収400万円超の労働者を同制度の対象とする希望を表明し,将来の同制度の対象者拡大を要望したことからすれば,労働者派遣法の対象業務の拡大と同様,今後,経営者団体の意向により,省令によって,国会での議論を経ずに,対象とされる労働者の範囲が拡大する懸念がある。そもそも,労働者の生命・健康の保護の要請が,当該労働者の年収額に反比例して低下することなどあり得ない。あらゆる労働者の生命・健康は画一的に確保されなければならず,収人が一定以上であるからといって労働時間規制を外してよいということにはならない。


3 フレックスタイム制については,清算期間を現行の1か月から3か月に延長するとしているが,1か月ごとの清算が不要となれば,清算期間到来までの時間外労働に対する制限は撒廃されることとなり,3か月間にわたり,長時間労働を肋長することになりかねない。

 また,企画業務型裁量労働制については,新たに「法人顧客の事業の運営に関する事項についての企画,立案,調査及び分析を行いながら商品やサービスの販売・提供の提案などを行う営業等の業務」,「事業の運営に関する事項の実施の管理と実施状況の検証結果に基づき,企画,立案,調査及び分析を行い,さらに同一事項の実施を行う業務」を追加するとしているが,業務遂行の手段・時間配分が全面的に当該労働者の裁量にゆだねられる余地のない営業や管理等の業務も含まれているし,同制度によって,「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェツショナル制度)」が適用されない広範な労働者に対し,割増賃金制度等の適用が排除され,結局,長時間労働を招く懸念が払拭できない。


4 時間外・休日・夜間における長時間労働の過労は,くも膜下出血,心筋梗塞,うつ病等を始めとする労働災害を発生させ,その結果,労働者やその家族らに対し,多大な労苦を与えてきた。一般労働者(フルタイム労働者)の年間総実労働時間が2000時間を超えるといわれる日本の労働時間は,今もなお世界最長レペルであり,「過労死ライン」と呼ばれる「月80時間以上の残業」に従事する労働者は,実に468万人と推計されている。


 このような深刻な現状を受け,過労死及び過労自殺自死)を防止するため昨年11月1日に,過労死等防止対策推進法が施行され,現在,「過労死等防止のため対策を効果的に推進する」とした同法に基づき具体的な対策が検討されているところであって,これらの制度は過労死等防止対策基本法に逆行するものである。


 よって,当会は,時間外労働等を肋長し,過労増大につながる制度の創設を内容とする今般の労働基準法等の改正(案)に強く反対する。

                               以上