いわゆる「共謀罪」法案の創設を含む 組織的犯罪処罰法改正案の 閣議決定に反対する会長声明 兵庫県弁護士会
http://www.hyogoben.or.jp/topics/iken/pdf/170321iken.pdf
「いわゆる『共謀罪』法案の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案の閣議決定に反対する会長声明」2017.3.21
いわゆる「共謀罪」法案の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案の閣議決定に反対する会長声明
2017年(平成29年)3月21日
兵庫県弁護士会会長 米 田 耕 士
〈声明の趣旨〉
当会は,いわゆる「共謀罪」法案(組織的犯罪処罰法改正案)の閣議決定に反対する。
〈声明の理由〉
1 いわゆる「共謀罪」法案の閣議決定
政府は,国内外のテロ対策の見地から,国連越境組織犯罪防止条約(略称「パレルモ条約」)の締結をするために必要であるとして,いわゆる「共謀罪」の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案(以下「本法案」という。)について,本日,閣議決定を行った。
当会は,過去6度にわたり,いわゆる「共謀罪」新設について反対する会長声明を発出しているが,本法案は,2003年から2005年にかけて3回にわたり国会に提出しながらも廃案となったいわゆる「共謀罪」法案と同様の危険があるため,本法案の閣議決定に強く反対する。
2 277もの「共謀罪」規定の創設を行う必要性がない
国連越境組織犯罪防止条約(略称「パレルモ条約」)は,複数の国々を越境して行われる経済的な組織犯罪を対象としており,そもそも政治的目的で行われるテロ対策とは無関係である。
また,同条約の締結に関し,政府は,「すべての重大犯罪の共謀と準備の行為を犯罪化することは我々の法原則と両立しない。」と述べており,同条約34条も,「自国の国内法の基本原則に従って必要な措置をとる」ことを求めており,わが国が同条約を締結するために,277もの「共謀罪」規定の創設を行う必要がない。
なお,国内のテロ対策については,我が国は,テロ関連主要条約の全てを批准しており,条約上の行為を国内法で犯罪と規定している。また,未遂に至らない段階からの処罰規定である多くの予備罪に加え,銃刀法・ピッキング防止法などテロ準備段階に対処可能な犯罪規定が既に多数設けられており,新たな立法を待つまでもなく未然防止が可能である。
3 本法案は「共謀罪」法案を厳格化していない
これまで当会が反対してきた,いわゆる「共謀罪」法案は,対象犯罪にあたる行為で,「団体」の活動として,当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を「共謀」した場合に処罰すると規定され,①「団体」に限定がなく,②「共謀」という概念自体が曖昧であることから,憲法上の根幹的な基本的人権に対する重大な脅威となるものであった。
本法案では,①処罰対象を,「目的が4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」(略称「組織的犯罪集団」)に変更し,②犯罪の構成要件として,犯罪の「遂行を2人以上で計画した者」によって「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の準備行為」という要件を付している。
しかし,①「組織的犯罪集団」は,「目的が4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」と定義されているため,捜査機関が団体の「目的」を確認して「集団」の認定を行うことから,「組織的犯罪集団」なる団体を予め,客観的に特定・限定できず,捜査機関の濫用規制を図ることは困難である(なお,本法案は,「テロリズム集団」を「組織的犯罪集団」の例示とするが,本法案に「テロリズム」の定義自体がなく,客観的に特定・限定は困難である。)。また,団体の「目的」が「4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある」と捜査機関が判断した場合には捜査の対象とされ,捜査機関の判断と運用に委ねられる点で従前の「共謀罪」法案の危険性は払拭されていない。
また,②犯罪の構成要件とされる「準備行為」も,未遂より前の段階を処罰する規定である「予備罪」における予備行為とは異なり,その行為自体の危険性を要するものではない。また,「準備行為」の例示に「その他」と規定されていることから,例えばATMからの預金引き出し行為など,一般市民の日常的な活動を広く含んでおり,客観的に,個人的な活動と区別することは困難であり,捜査機関の濫用規制を図ることはできない。また,捜査機関が個人の日常的な活動を「準備行為」を行ったと判断した場合には処罰対象とされるため,捜査機関の判断と運用に委ねられる点で従前の「共謀罪」法案の危険性は払拭されていない。
なお,1回の合意では処罰対象としない運用を行うといった指摘もあるが,そもそも刑罰法規において,条文上明示されない運用などで一般市民の自由を確保することはできないことはいうまでもない。
したがって,本法案は,従前の「共謀罪」法案に比して厳格化されたと評価することはできない。
4 本法案は一般市民の自由な活動を萎縮させる
以上のとおり,本法案は,「2人以上の者らの合意した内容」を犯罪とするものであり,政府が,2人以上の者らで構成される「団体」の「目的」が一変したと捜査機関が判断した場合は処罰対象となると指摘するように,外部から覚知することが困難な人の「意思」を推知するために,合意成立前からの捜査が想定される。そのため,昨年5月に,対象犯罪が拡大され,通信事業者の職員立会要件が緩和された通信傍受法の対象犯罪に「共謀罪」が加えられる可能性は極めて高く,277もの「共謀罪」の創設は,2人以上の者らで構成される「集団」の「目的」の変化を確認する捜査を誘発し,却って,何ら違法性のない段階から,一般市民の日常的な行動等の監視を招くことになる。その結果,市民の日常の会話のみならず,電話・メール・インターネット・SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)・GPS(グローバルポジショニングシステム)などの通信情報が傍受されることによって,プライバシー権や通信の秘密といった基本的人権が損なわれ,一般市民が享受してきた自由な交流活動が萎縮するなどの従前の「共謀罪」法案と同様の懸念が否定できない。
5 結論
以上のとおり,本法案は,「2人以上の者らが話し合った内容を犯罪とする」という点で,いわゆる「共謀罪」が有する危険性が払拭されておらず,結局,従前の「共謀罪」法案と同じく,憲法が保障する基本的人権が保障する一般市民の自由な生活に対する脅威になる。
したがって,当会は,声明の趣旨のとおり,277もの「共謀罪」を創設する組織的犯罪処罰法改正案の閣議決定に反対するとともに,今後も市民に対して本法案の危険性を訴え,廃案になるように全力で取り組む次第である。