全労協16春闘方針 その2 16春闘を取り巻く情勢

全労協16春闘方針 その2 16春闘を取り巻く情勢


http://www.zenrokyo.org/syunntouhousinn/syuntou.htm より

全労協16春闘方針

1)16春闘を取り巻く情勢


<国際情勢>


○果てしない憎悪の連鎖―テロと空爆と市民の犠牲

  シリアからの難民がドイツを中心としたEU諸国へ殺到している。その避難経路では痛ましい悲劇が 繰り広げられている。シリア内戦とIS(イスラム国)支配から逃れる人々はEU諸国に向けて数十万人  に達している。トルコなど近隣諸国でテント暮らしを余儀なくされている人々を含めると2200万人口の 内400万人に達していると云われる。シリアではアラブの春から内戦に発展し、IS勢力は拡大して過酷 な支配を続けている。

  フランスではISによるとされる連続テロが発生し犠牲者は130人を数え、224人の死者を出したロシ  ア旅客機の墜落にも係わったとされる。欧米は直ちにISへの空爆を強化し、シリアではIS兵士ばかり  か多数の市民に犠牲が拡大している。そしてイスラム教徒への攻撃が多発し、終わりのない憎悪の  再生産が行われている。そして貧困も再生産されている。

  そもそもISが誕生し支配を拡げるのはアメリカによる対テロ戦争と称した中東への軍事介入に対す  る抵抗から生まれたものであり、アメリカ軍の撤収もできずに泥沼化している。また、イスラエルによる パレスチナ攻撃も継続され犠牲者を積み重ね、憎悪は再生産を続けている。そして、ウクライナ問題  や、南沙諸島問題によってアメリカ、ロシア、中国間の対立が強まり、国際政治の不安定要素が広が っている。

新自由主義・資本主義の腐敗

   新自由主義グローバリズムによる国境を越えた資本間の競争はVWの排ガス規制偽装問題や、東  芝の不正会計など企業モラルの崩壊を引き起こしている。一方、貧困層は拡大を続け、世界的規模  で格差社会が拡大している。

  ソ連崩壊によって資本主義の勝利が高らかに謳われ、新自由主義経済の台頭によって多国籍大  企業が登場し、「株主第一・利益第一」が最優先されるばかりか、実体経済の裏打ちもなく金融市場  は肥大化して暴走を続け、リーマンショックを引き起こした。しかし、新自由主義は経済の国際化に対 応するルールも拒否し、ギリシャやスペインなど中小国の経済破綻をもたらし、世界経済の不安定化 を脱することは出来ないままにいる。G8、G20等の無為無策が続いている。

  中国経済の減速傾向が世界経済に深刻な影響を及ぼしている。9月にトルコで開かれたG20財相  会議は世界経済の停滞、金融市場の不安定化をもっぱら中国経済構造改革の遅れを指弾するば かりで局面打開に向けた新たな方策を見いだせないままに閉幕した。ドイツ経済が難民問題もあり停 滞し、依然として解決できないギリシャやスペインの経済危機など新自由主義経済の行き詰まりは深 刻さを増している。

○大企業優先にNO!を突き付け始めた世界の労働者

 世界経済の混迷と新自由主義政策の破綻は各国で「もうこれ以上我慢ができない」という地殻変動をもたらしはじめている。ギリシャの労働者が急進左派連合のチプラス首相を選択して経済危機を乗り切ろうとしたように緊縮策と自己責任を強い新自由主義政策に「NO!」とする声が広がり始めている。イギリス労働党党首には左派のジェレミー・コービン氏が選出され、オーストラリアでは親米派アボット首相に代わり親中国派と言われるタンブール氏に首相が交代した。カナダでもTPPに慎重なトルドー首相が誕生した。来秋に行われるアメリカ大統領選挙にも大きな影響を及ぼし、最有力候補と云われるクリントン氏は「現時点ではTPPに賛成できない」と表明せざるを得ない状況となっている。

 ウォール街で始まったオキュパイ運動は世界を駆け巡り、先進国でも大企業の利益拡大に反対して低賃金・非正規、貧困に直面する労働者、民主主義を求める労働者の闘いは拡大している。



<国内情勢>

○暴走が止まらない安倍政権の戦争する国づくり

 安倍政権は60%を超える反対の世論にもかかわらず、戦争法案を強行採決し、成立させた。圧倒的多数の憲法学者による戦争法は憲法違反であるという指摘も無視し、外国で自衛隊が戦争に参加することを可能にした。戦争法は16年3月には施行され、南スーダンへ派遣されているのPKO部隊は駆けつけ警護として武器使用が可能となり、また南沙諸島へ米軍に追従した警備警戒行動に加わり、中国軍との接触が危惧されている。戦後70年、戦争をしない国として、専守防衛を建前としてきた自衛隊が、戦争する国の軍隊・自衛隊(日本軍)となり、他国の人々と殺し殺される関係になろうとしている。

 戦争法を強行成立させた安倍首相は人々の怒りをそらすため早々とに国会を閉会し外交日程として海外に逃亡した。戦争法に対する批判には更に説明を続けるとしながら憲法で定められた野党からの臨時国会開催要求にも応えず憲法違反を繰り返している。安倍政権は憲法はすでに無いもの、霧散しているもののような状態とし、立憲主義と真逆の独裁政治に突き進んでいる。そして現職首相として初めて米空母ロナルド・レーガンに乗船しF18戦闘機フォーネットに乗り込み、子どもようにはしゃいで見せたのである。この空母と戦闘機はシリアで空爆を行い、多くの犠牲者を出した血に汚れた兵器である。

憲法・民意の上に日米同盟ありき! ―沖縄への新基地建設押しつけ

 安倍政権は戦争法の強行と一体として沖縄辺野古新基地建設も強行している。翁長沖縄県知事は仲井真前知事が行った大浦湾の埋立承認には瑕疵があるとして決定を取り消した。しかし、安倍政権はこの「取り消し」を私人として不服審査を国交省に申し立て、国交大臣が取り消しの無効を決定した。防衛大臣が私人として不服申し立てを行い、国交大臣がそれを審査するという茶番劇は沖縄の人々の怒りを更にかき立てている。辺野古の海やキャンプシュワブ前での抗議行動が連日多くの人々によって続けられている。地方自治の保障を破壊し、沖縄への差別がこれほど露骨に政府によって進められることを決して許してはならない。

憲法違反、アベノミクスの失敗を隠す「新三本の矢」のお為ごかし

 安倍首相は戦争法批判から人々の目をそらさせ、景気回復によって生活を取り戻したいという市民の願望を逆手にとった新たな経済政策として「新三本の矢」を発表した。それは①強力な経済力の回復としてGDP600兆円を達成し、②子育て支援による希望出生率1.8人、③介護退職をゼロにする社会保障の充実という3項目を実施するというものである。しかしどれ一つとっても具体案はなく、絵空事を述べながら支持率の回復と16年参議院選挙へ向けた布石にしようとしているのである。

 その背後に隠した本音は強力な経済力として軍需産業原発産業を育成し、労働法制の改悪を進め、企業の使い勝手の良い労働者へと非正規化を進め、人件費削減・コストカットによる利益確保をはかることである。第二次安倍内閣発足時に「女性の活躍」社会を掲げながら、いまや一億総活躍の陰で、「202030」も断念かと言われている。非正規労働者は40%を超え、女性労働者の56.7%以上が非正規労働に追いやられている。介護離職をゼロにと言いながら、介護労働者の労働条件を低賃金無権利な過酷労働に放置し、介護職から多くの労働者が離職を余儀なくされている現状に目を背けている。世論調査に現れている「安倍政権に変わるものがない」と言う労働者市民のジレンマを逆手に取っているに過ぎない。

 アベノミクスによる株価つり上げのために使われた年金基金は約8兆円の損失(2015年7~9月期)を出し、大企業の利益拡大のために労働者市民の老後の「安心」を霧散させたのである。アベノミクスの失敗を覆い隠し、更に労働者市民に景気回復の幻想を振りまくことは許されない。そればかりでなく、17年4月には消費税を10%へ引き上げることをすでに決定しており、公明党と軽減税率を巡るやりとりで増税をごまかそうとしているのである。

○武器輸出、原発輸出を要求する経団連

 一方、政府は景気回復の要として戦争法と一体に自衛隊の軍備強化に防衛予算を拡大し、経団連は武器輸出の戦略的推進を政府に要請している。その窓口に防衛装備庁を発足させ官民挙げて「死の商人」へと突き進んでいこうとしている。

 また、原発輸出促進のために原発の再稼働を急いでいる。日本の産業構造の転換の柱に軍事産業の育成や、原発産業などを他国のインフラ整備に貢献するという建前によって行おうというのである。中谷防衛大臣は韓国で開かれた兵器展覧会に自ら出席して日本の軍事技術の優秀さをセールスして見せた。

 日本経団連はこの政府の意向に飛びつき、軍需産業育成を政策推進の戦略的柱にすることを提言し、法人税引き下げの要求しながら、自民党への政治献金を参加企業に呼びかけている。

原発再稼働へ突き進む安倍政権と財界

 政府は9月、川内原発の再稼働を強行した。猛暑であったこの夏に電力不足もなく、安定して電気を供給できたにもかかわらず強行した。3・11で脆くも崩れた安全神話を再び担ぎ、避難計画も地震対策も充分確立できないままに再稼働を強行したのである。川内原発は一号機に続き二号機も稼働を始め、来春には愛媛県伊方原発の再稼働を決定している。その後、福井県の高浜原発を動かす予定とされている。

 一方、再生エネルギーの買い取りを抑制し、太陽光発電など自然エネルギーへの転換は遅々として進んでいない。円安と原油安、電気料金値上げによって全ての電力会社の経営は黒字に転換しているにもかかわらず、原発固執するのは原発村と原発製造企業の要請とその利権に群がる自民党や政治家のためである。3・11福島原発事故によっていまだ10余万人が避難を余儀なくされ、また放射能汚染水が海洋に垂れ流されている現状を覆い隠すばかりである。

○大企業も「ブラック」企業へ

 9月期決算は上場企業の利益が更に肥大化していることが発表されている。アベノミクスによる大規模な金融緩和は継続され、円安と株高を年金基金など公金をつぎ込む官製相場によって利益が保障されているのである。また、東芝の不正会計に見られるように目先の利益のためには何をしても良い、経営陣は刑事責任を追及されることもなく責任を取らないと言うモラルハザードは「ブラック」企業を増大させ続けている。

 安倍経済政策は大企業と一部正社員に恩恵をもたらす一方、中小零細企業に働く労働者、非正規労働者、高齢者には賃上げもなく物価高が生活を直撃するばかありである。国内の消費動向は上向くことなくGDPも実質マイナスとなっている。

○官製春闘のごまかし

 15春闘は官製春闘といわれたが連合集計では2.2%の引き上げに終わった。最低賃金は全国平均18円の引き上げで798円となった。安倍首相のパフォーマンスは労働者の生活向上には全く貢献していない。 

 他方、労働者派遣法は改悪され、派遣労働者は一生低賃金派遣労働に縛り付けられることになり、残業代ゼロ・過労死を促進する労働基準法改悪案が継続審議となっている。解雇の金銭解決方式の導入も成長戦略として閣議決定され検討会が始まっている。

 政労使会議において賃上げの見返りに景気の好循環と働き方改革への協力を求められた労働側に労働法制の規制緩和が襲いかかっている。低賃金使い捨ての外国人労働者の受け入れ拡大など戦略特区法等も悪用した攻撃が強まっている。
 そして、政府は16春闘を前に今年は連合など労働界を排除して政府と財界による官民会議を課題ごとに設定し、その場で財界に引き続き賃上げを要請し、毎年3%以上の引き上げを求めた。さらに最低賃金について企業の努力を要請した。2020年頃には最賃1000円を実現するというものである。これは目新しいものではなく、2008年の成長力底上げ戦略推進円卓会議における政労使決定であり、できる限り早急に全国平均1000円を達成するとしたものである。閣議決定も行われているのである。安倍首相の人気取りのためにことさらに述べているに過ぎない。安倍首相が本気で非正規労働者や中小企業労働者の生活向上を願うなら、直ちに実施すべきであろう。

○戦争法反対闘争の昂揚が続いている。

 安倍政権による問答無用、憲法違反の戦争法案強行採決は60年安保闘争に匹敵する反対闘争を大きく昂揚させた。8月30日には12万人を超える労働者市民学生が国会を取り巻き、安倍政権の即時退陣を求めて結集した。全国各地でもかつてない数万人規模の集会やデモが繰り広げられた。沖縄辺野古新基地建設反対闘争とも連携して闘われた。この闘いには学生はシールズを組織し、子どもを連れて参加した母親たちは「ママの会」を組織し、戦争体験者まで幅広い大衆的な運動に発展した。そして「野党がんばれ」の後押しによって民主・社民・共産・生活の党などの野党共闘を促進させた。この闘いは戦争法の可決成立後も各地で続いている。その中心は反原発運動から大衆的運動を支えてきた諸勢力が「総がかり行動実行委員会」として党派を超えた広範囲な運動によって支えられてきた。そして安倍政権打倒向けた2016年7月参議院選挙での共闘を模索している。