全労協/ 最賃審議に安倍首相が介入 800円以下への抑制を許すな / 全労協新聞 2015年9月号

全労協/ 最賃審議に安倍首相が介入 800円以下への抑制を許すな / 全労協新聞 2015年9月号


全労協
http://www.zenrokyo.org/

全労協新聞
http://www.zenrokyo.org/simbun/sinbun.htm
より


●宮城全労協
最賃審議に安倍首相が介入
800円以下への抑制を許すな



宮城地方最賃審議会は八月七日、最賃改正決定の内容を宮城労働局長に答申した。「時間額七二六円(前年から一六円引き上げ)」、つまり「目安」と同額である。「目安」答申(七月二十九日)以降、さほどの日数も経っておらず、審議内容が地域で報じられることもなかった。

宮城全労協は、地方審議会に対して行った要請内容とかけはなれており、最賃審議の公開への改善も示されていないとして、異議を申し立てている。政権交替後の二度の最賃審議に比して、関心は大きく低下した。安倍政権の姿勢が影響している。

首相は七月の経済財政諮問会議で「大幅引き上げ」に言及した。首相の意欲が過去最大の引き上げにつながったと、政府は評価した。しかし、この「介入」は「密室審議」「支持率対策」などの批判や懸念を呼ぶものだった。

経済財政諮問会議(七月二十三日)には厚労省内閣府の二つの文書が提出された。

厚労省資料は、最賃の「真摯な議論」を強調しつつ、引き上げによる「労務コスト」増大にも注意を向ける。総じて、労使と公益三者への配慮がうかがえる。内閣府資料は、「賃金の硬直性」を脱却するために最賃引き上げの役割を認め、「賃金が物価上昇をリードしていくことが必要」であり、「政府が一定の役割を果たすことも重要」だと述べる。中小企業対策の必要性は両者同じだが、内閣府資料は「生産性向上に向けた事業転換」などに踏み込んでいる。

首相は前回会議(七月十六日)で最賃引き上げの経済的な効果をただした。内閣府資料はこれに応えて「総雇用者所得への影響」を数値で示した。「プラス十円以下」「プラス二十円以下」「プラス三十円以下」に区分し、十円と二十円について、それぞれ金額を試算している。ところが「三十円」については記述がない。

「目安」は全国加重平均で「時間額十八円」、「七八〇円から七九八円への引き上げ」となった。過去最大の引き上げ額であるが、民主党政権時代の政労使合意でとりあえずの額とされた「八〇〇円」にはとどかない。内閣府資料が二十円の試算にとどめ、二十円以上にふれなかった意味はそこにあるのだろう。経営側にとっても顔の立つ額だということか。

日経新聞経済財政諮問会議での首相「介入」による「異例の展開」を紹介し、「過去最大の賃上げは政権側の実績となり、労組側はお株を奪われた」と解説した(七月三十日「最低賃金上げ、首相『介入』/支持率低下、焦り隠せず?」)。過去最大にしては政権側のアピールが華々しいものでないのは、あまりも見え透いた首相の「政治介入」だったからではないか。

八月十七日、注目のGDP値(四~六月期)はマイナスだと発表された(速報値)。非政府系アナリストたちは、こぞってマイナスを予測していた。

甘利経済再生担当大臣は「輸出」「消費」「設備投資」を要因にあげた。とくに賃金と消費との関係について、物価の上昇に賃上げが追いついていないという「肌感覚が広がっている」と説明した。国民多数、とくに「地方」「非正規雇用」「中小零細」は生活苦を訴え、アベノミクスへの不支持を表明してきた。甘利大臣の発言は、これまで各種の世論調査や統計が示してきたことを追認したものだ。

安倍首相は今年になって、アベノミクスは「トリクルダウンの政策」ではないと国会答弁した。首相は(したたり落ちるのを待つのではなく)全体を底上げするのだとして、大企業の労使賃金交渉に「介入」した。首相は続いて、消費税増税の影響は一年を経て「剥落」し、実質賃金は(四月以降)上昇に転じるだろうという予測を持ち出した。

こうして、実質賃金が上昇していないという野党の「アベノミクス」批判は、賃上げと「剥落」効果なるものによって粉砕できるはずだった。しかし、実質賃金の上昇局面に至ってはいない。

大企業の賃上げ効果は、前年に続いて限定的だった。さらに年金や社会保障の削減などによる生活不安は深まっている。しかも、「はがれ落ちる」のは「前年比」という統計処理上のことだから、消費増税の影響は消えずに生活を圧迫し続けており、消費意欲を減退させている。

甘利大臣発言は、このような経緯のなかでなされたことだ。「トリクルダウン」ではない、「底上げによる好循環」だ、というのなら、最低賃金の大幅な引き上げは当然である。「八〇〇円」は超えないという程度の「政治介入」では打開できない。五年前の政労使合意、「一〇〇〇円」がとりあえずの「目安」でなければならない。その実現に向けて最賃闘争を広げよう。