全労協/ もの言えぬ社会をつくる朝日新聞バッシング / 全労協新聞 2014年10月号

全労協もの言えぬ社会をつくる朝日新聞バッシング / 全労協新聞 2014年10月号




コラム
疾風

もの言えぬ社会をつくる
朝日新聞バッシング

全労協常任幹事
柚木康子


今、朝日新聞に対するバッシングが異常だ。八月五、六日の「慰安婦」問題の記事取消をきっかけに、電車のつり広告には売国奴とか、「慰安婦」問題そのものがなかったような主張まであふれている。九月十六日参議院議員館で「もの言えぬ社会をつくるな!」の院内集会が開かれた。「戦争になってから反対派を潰すのではない、それ以前から排除していく」状況が今なのだと実感した。

朝日新聞は委縮しないで記事を書き続けてほしいとまとめた「女たちの戦争と平和料館」の事務局長渡辺美奈さんの「慰安婦」問題の発言を一部紹介する。

原因は安倍総理の「強制」否定発言

論点:朝日新聞吉田清治道が世界の世論を作ったか?

答えは否です。世界に衝撃を与えたのは、一九九一年八月の金学順さんの名乗り出です。このニュースをきっかけにオランダ出身でスマラン事件の被害者、ジャン・ラフ・オハーンさんも名乗り出て証言することを決意しました。その後、台湾、フィリピン、中国、インドネシア、マレーシア、さらには東ティモールまで、被害者が立ち上がりました。吉田清治の証言をきっかけに立ち上がった人は一人もいません。そして、これら各国の女性たちの証言によって、「慰安婦」制度というのは日韓の問題ではなく戦時に広範囲に行われた性暴力、性奴隷制だったことが明らかになっていったわけです。

論点:現在の国際的な非難の原因を作ったのはだれか?

被害国だけでなく、米国やヨーロッパ諸国からも非難されるようになった、この原因をつくったのは間違いなく二〇〇七年の安倍首相による「狭義の強制連行」否定発言です。私は国連ロビー活動を二〇〇二年から始め、人権小委員会、女性差別撤廃委員会、自由権規約委員会、社会権規約委員会、拷問禁止委員会、二〇〇六年以降は人権理事会、それぞれに報告書を出し、ニューヨークやジュネーブで情報提供をしてきました。二〇〇二年の時点では、国連は「慰安婦」問題についてはすでに十分取り組んできた課題として関心は薄く、拷問禁止委員会でも現在の拷問で手一杯という対応でした。

その流れが変わったのは、二〇〇七年の安倍総理の「狭の強制連行」否定発言です。補償問題だけではない、日本では事実さえも否定されていることが総理の発言で世界に知れ渡り、現在の人権問題であることがわかったからです。米国下院議会では二〇〇七年二月、被害者三人を招いて公聴会が開かれましたが、安倍総理の狭義の強制連行否定発言はその二週間後でした。そして四月に首脳会談で安倍首相がブッシュ大統領に謝罪することで鎮静化させようとしましたが、六月に桜井よし子らが事実を否定する意見広告をワシントン・ポストに出して決定的になりました。彼らこそ国際社会で日本の評価を落としている張本人でしょう。決議スポンサー数の増加の経緯を見れば、安倍総理の否定発言やワシントン・ポストの広告がスポンサーを増やしたのは明らかです。吉田清治朝日新聞もまったく影響を与えていません。「朝日新聞が世界に向かってしっかりと取り消す努力が求められている」と安倍氏はNHKで言ったそうですが、しっり取り消す努力が求められているのはあなたの認識です、と声を大にしていいたい。

アメリカで記念碑ができ始めたのも、第一基目はパリセイズ・パークで二〇一〇年十月、安倍総理の否定発言後でした。朝日の吉田証言報道が原因なら、一九八〇年代に作られるはずではないでしょうか。条約等の判断には様々な見解がありますが、歴史の事実を否定することは、国際社会は認めてきませんでしたし、これからも認めないでしょう。