公契約1 公共事業従事者賃金低下で意見書 福井弁護士会が県内全自治体に


公共事業従事者賃金低下で意見書 福井弁護士会が県内全自治体に
(2012年7月31日午前7時03分)
 
 公共工事での賃金が著しく低下を続けているとして、福井弁護士会は30日までに、最低賃金20+ 件額以上の給付を受注事業者に義務付ける公契約条例の制定を求め、福井県内全自治体に意見書を提出した。
 意見書では、自治体の財政難とコストカットで公共事業従事者の賃金が低下、全国では生活保護費の基準に達していないケースもあると指摘。貧困問題の地域への悪影響は大きいとし、実際に条例を施行した県外自治体の例を盛り込んで制定が必要と訴えている。
 日弁連から全国の弁護士会に働き掛けがあり、提出を決めた。福井弁護士会は県内で制定への動きは見られないとし「労働者の生活水準が向上すれば、福祉の支出が抑えられるなどメリットも出てくる。制定を急いでほしい」としている。


 
2.福井弁護士会


 
公契約法・公契約条例の制定を求める意見書
 
意見の趣旨
  当会は,福井県内の各地方自治体に対して,貧困問題・ワーキングプア解消の見地から,公契約に基づいて労務に従事する者たちの適正な労働条件を確保するために,公契約を規制する条例(公契約条例)を積極的に制定することを求める。
  また,国に対して,公契約法の制定及び全国の地方公共団体に対する公契約条例制定に向けた支援を求める。
 
意見の理由
1 公契約に基づく業務に従事する労働者の現状について
  公契約とは,ILO94号条約によれば,「公の機関を一方当事者とする契約」と定義されており,主として国や地方公共団体などの公的団体が企業など民間事業者との間で,公共工事の発注や業務委託等の形で締結される契約である。
  公契約は,1990年代の「官から民へ」の掛け声の下,従来は国や地方公共団体が直接行ってきた業務について,民間企業や民間団体に委託されるに従い,拡大を続けてきた。
  しかし,公契約の拡大の裏には,国や地方自治体の財政難の下,公務における正規職員の削減と公共事業のコストダウンが図られ,一方で,人件費の安い非正規労働者への依存や民間企業の過当競争が進行し,結果として民間企業の経営悪化と労働者の賃金,労働条件の著しい低下を招いている。このような中,ある地方公共団体では,当該地方公共団体の委託による業務に従事している労働者の賃金が生活保護基準に達せず,生活保護を受給するという事態も生じている。かかる事態が地域経済に与える悪影響は計り知れず,国レベルでもデフレ経済の問題や若年層の貧困化に伴う少子化問題に拍車をかけている。
 
2 公契約法・公契約条例の意義
  公契約法や公契約条例は,公契約に基づく業務に直接・間接に従事する労働者の最低賃金額の遵守を契約の条件として事業者に対して義務付けるものである。具体的には,ある地方公共団体の公共事業の発注において,工事を受注した事業者は,この工事に従事する自社従業員に,条例で定める最低賃金額以上の賃金を支払う義務を負うほか,下請け・孫請け企業もその工事に従事する従業員に対して条例で定める最低賃金額以上の賃金を支払う義務を負うことになる。
  本来,労働環境の改善,特に賃金水準の引き上げには最低賃金の引き上げが望ましいのであるが,経済のグローバル化による厳しい経済情勢の下では,直ちに最低賃金の引き上げを行うことには,問題点も指摘されるところである。
  これに対し,公契約法・公契約条例による最低賃金規制においては,公契約に基づく労働の対価のみが対象となるが,アメリカにおける「リビング・ウェイジ条例」(「生活賃金を支払う」条例)の下,地域全体の賃金水準引き上げの効果が生じているとの報告や,我が国の野田市でも,公契約条例を施行した平成22年2月以降に清掃委託業務に従事していた労働者の賃金が1時間当たり101円上昇するといった効果が報告されるなど,公契約法・公契約条例の制定によって地域全体の賃金水準が底上げされる効果を期待することができる。そして,地域全体の賃金水準が底上げされることにより,地域の労働者の生活水準の向上,福祉的支出の減額,税収の増加等,国や地方公共団体にもメリットをもたらすものであるから,公契約法・公契約条例の制定の意義は大きい。
 
3 公契約法・公契約条例の現状
  ILO94号条約について,我が国はまだこの条約を批准していないが,既に61か国が批准している(平成23年6月現在)。アメリカ,イギリス,フランス,ドイツなどでは公契約法の制定がなされており,また,アメリカの多くの州の自治体で,前記の「リビング・ウェイジ条例」が制定されている。なお,これらの規制により,公契約に関する賃金を高くすることについては「財政圧迫」などの批判も懸念されるが,ロサンゼルス市当局などからは「労働者の生活水準が上がり,その分だけ福祉的な支出が減るという意味で,納税者にもメリットがある」との指摘もあり,市民からの目立った反論はないとの報告もある。
  我が国もILO94号条約を批准して公契約法を制定すべきであると考えられるが,その動きはまだ存在しない一方,前記の野田市が平成21年9月に全会一致で公契約条例を成立させたのを皮切りに,川崎市議会でも平成22年12月に全会一致で成立させている。その後も東京都多摩市,国分寺市,渋谷区,神奈川県相模原市などで条例が成立しており,今後も条例制定が拡大する見込みである。また,工事委託などについて契約先を選定する際の評価方法として,厚生労働基準や環境への配慮を挙げて行っている例としては,山形県公共調達条例があり,また要綱などでこれを定めている例として,国分寺市,日野,豊中旭川などの市がある。
 
4 まとめ
  当会は,日本弁護士連合会と共に,多重債務問題にも取り組んできているが,この問題の背景に「低所得」による貧困問題があり,労働者の生活水準の向上は,多重債務を含めた様々なリスク回避にもつながるものと期待される。
  既に述べたとおり,公契約法・公契約条例の制定は,地域の労働者の生活水準の向上に寄与するものであり,深刻な社会問題となっている貧困・ワーキングプアの問題の解決にとって重要な意味を持つものである。
  したがって,当会は,福井県内の各地方自治体に対し,公契約条例の制定を求めるとともに,国に対し,公契約法の制定及び全国の地方自治体に対して公契約条例制定に向けた支援を求める次第である。

2012年(平成24年)7月25日
福 井 弁 護 士 会
会 長  和 田 晋 一


 
3.


主要記事 [2012-07-19]

公契約条例、拡大の兆し/自治体政策に業界の理解進む
 自治体の発注工事や委託業務に従事する労働者の最低賃金を決める「公契約条例」を制定する動きが拡大の兆しを見せている。6月には東京都渋谷区と国分寺市が相次いで条例を制定、2009年9月制定の千葉県野田市を皮切りに、条例を制定した自治体は全国で6市区となった。自治体にとっては、地元の企業・労働者の経営・生活苦境の打開と、低価格競争の負の連鎖歯止めが狙い。社会政策として位置付ける公契約条例の検討議論が進んでいる背景には、景気低迷と政権交代を契機に労働者団体の発言力が増していることもありそうだ。
 公契約条例は、自治体発注者と元請けが交わす契約の中に、下請けの労働者の賃金水準に元請けが責任を持つことを決めるのが大きな特徴。
 日本労働組合総連合(連合)や、全国建設労働組合総連合(全建総連)が最終目標に掲げる、国が公契約工事や業務に従事する労働者の最低賃金を決める「公契約法」が、結果的に公権力を行使する規制であるのに対し、自治体の公契約条例は発注者と元請けの契約に、「第三者(下請けの労働者)のためにする契約」という民法規定に基づいていることが大きな違いだ。
 自治体が国の公権力規制と同様の形態で条例を制定すれば、契約自由の侵害など憲法違反、条例で最低賃金を決められない最低賃金法や、最少経費で最大効果原則を規定する地方自治法などで違法と判断される可能性もあるため、公契約に民法規定の考え方を持ち込んで正当化させた形。
 東京23区初の条例制定を受け、連合と全建総連支部、渋谷区職員労働組合が5日に開いた「渋谷区公契約条例の集い」には、桑原敏武区長のほか、自民、共産、民主各党の区議団幹部も出席。来年1月から施行される同区公契約条例に対する高い関心を見せた。
 自治体と労働者団体だけでなく、元請けの地元建設業界も公契約条例に賛成し始めたのは、「発注者、元請け、下請け、労働者が一体となってダンピング(過度な安値受注)に取り組まなければ、建設業の将来はない」(元請け中小企業経営者)ことが理由だ。
【公契約条例の制定自治体】
◆2009年
 ・千葉県野田市(9月)
◆2010年
 ・川崎市(12月、政令市で初)
◆2011年
 ・東京都多摩市(12月)
 ・相模原市(12月)
◆2012年
 ・東京都渋谷区(6月)
 ・東京都国分寺市(6月)
〈首都圏で条例検討を開始した主な自治体〉
◇東京都世田谷区・東京都足立区・神奈川県厚木市・神奈川県藤沢市
 このほか、札幌市が条例制定へ議論を開始。京都市が事例研究を開始したほか、高知市条例案を上程した。


 
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