命と生活を脅かす 五輪ごり押しにNO! / 全労協新聞 2021年3月号 

命と生活を脅かす五輪ごり押しにNO! 全労協新聞 2021年3月号 

 


 

私たちの命と生活を脅かす
五輪ごり押しにNO!

全国労働組合連絡協議会 議長 渡邉 洋


 新型コロナの感染拡大が長期化する中、東京オリンピックパラリンピック(以下五輪)組織委員会森会長の女性差別発言によって五輪を巡る情勢はさらに混迷を深め、会長辞任に発展した。感染症対策の遅れを差し置いて、何が何でも開催との空虚なメッセージを発し続けてきた政府の責任は重大だ。

 中止すべしとの世論は日に日に高まっているが、一方で判断が遅れるにつれて、中止による経済への打撃等の影響も深刻さを増している。進むも地獄退くも地獄だが、労働者への矛盾の押しつけを許さない取り組みが問われている。


●男女平等施策を公然と否定

 今回の五輪は、夏季五輪史上初めて「男女平等」を公式理念に掲げた。これを受けてJOCは、文科省等がまとめた「ガバナンスコード」に沿い、全理事のうち女性を四割以上にすることを明らかにしてきた。

 組織委員会森喜朗会長の「問題発言」は、二月三日、JOC評議会で話題が女性理事の登用問題に移った時に飛び出した。氏の発言は、「テレピがあるからやりにくい」「女性理事を選ぶのは文科省がうるさい」などと前置きした上でのもので、報道されることを承知、批判を承知での発言だ。決して「失言」などではなく、女性理事の登用を促す「外圧」に公然と反旗を翻したのだ。

 「女性四割」は、男女の性差別を解消するために積極的に格差を是正する「クオータ制」を体現したものであり、もちろんこれを「逆差別」とする批判もある。しかし森氏は、女性一般を類型化し揶揄することで持論の正当化を試みた。


●森発言は女性差別の容認・固定化

 森氏は「女性の多い会議は時間がかかる」と述べ、その原因について「競争意識が強い。誰かが手を挙げると自分も…と思うんでしょうね」と続けた。そして発言時間の規制の必要性に言及している。理事からは笑い声が漏れたという。その一方で、自身にとって身近な女性理事には「わきまえている」「お話も的を得た」と「褒め」言葉をちりばめた。

 森氏の発言は、活発に発言する女性への苦言であり、発言によって会議が長引くことを迷惑に思っていることを見事に表している。そして「わきまえている」という賛辞は、あくまでも氏の思惑の範囲内で振る舞う女性に向けられたものだ。

 TV等では、「本当は良い人」「単なる失言」「いじめるのはかわいそう」という擁護論が多く流された。桜田経済同友会代表幹事は森発言を「論外」とする一方、企業での女性登用の遅れは「女性にも(問題は)ある」などと決めつけた。極めつけは経団連中西会長の「日本社会にはそういう本音が正直言ってある」という傍観者を決め込んだコメントだろう。差別と闘う姿勢を見せず森氏擁護に奔走する中西会長に抗議の声を!


●ボランティアも職員も消耗品?

 自民党二階幹事長は、森発言に幻滅した大会ポランティアの相次ぐ辞退に対して、「やめたいなら、新たに募集」などと述べた。五輪の理念に共感してきた市民の思いを踏みにじる暴言だ。

 東京都オリパラ準備局では、各局からベテラン職員数百人が集められてその運営に当たっている。また、都は五輪対応と称して地方公務員法第四条に基づく任期付職員を多く採用、応募者は五輪への関わりを夢見たが、実際は、人材が引き抜かれた穴を埋めるために五輪とは無関係の部署に配置され、低貢金で働くことを余儀なくされている。

都労連は処遇改善と無期への任用切替を要求しているが、都は一切応えようとしない。


●医療現場の疲弊を直視せよ


 四十度近い酷暑の中で開催が予定される五輪では、膨大な医療スタッフが必要とされている。橋本五輪相は、開催に必要なスタッフについて「一人五百人程度を前提に一万人程度確保」と述べている。

一方、長期化、深刻化するコロナ対策ですでに医療現場は疲弊しきっている。もし今後感染が一定の終息を迎えても、続けざまに協力を当てにするなどあり得ない。まして、感染の終息を前提とできる状況ではないことは明らかだ。

 女性差別に対する毅然とした対応を妨げ、市民、労働者の払っている犠牲への感覚を失わせている五輪開催ありきの政治に終止符を!